□あなたの全て
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なんだかイライラしてた。

何に対してだかもよくわからない。
わからないけど、イライラしてた。




「宍戸さん、帰らないんですか?みんな帰っちゃいましたよ?」

部活が終わって部室にいたら、声をかけてきた長太郎。

「ねぇ、宍戸さ…」
「うるせぇ!!」

俺がでかい声を出せば長太郎は目を見開く。

「お前はいつも人の周りをウロチョロしやがって!!人の迷惑がわかんねぇのかよ!?」

いけない…
ヤメロ…

「俺に構ってんじゃねぇよ!!勝手に一人で帰ればいいだろ!?」

頭でうるさいくらいの警鐘が鳴り響く。

ダメだ…
言ってはダメだ…



「お前、ウザイんだよ!!」

一人で声を荒げて怒鳴った。

言い終わって正気を取り戻す。


泣きたくなった。

長太郎のひどく傷付いた顔を見て。

俺が傷付けた。

「…ごめんなさい…」

違う。
お前は何も悪くないんだ。
謝るのは俺なんだ。

そう思っても声に出ない。
身体が動かない。

長太郎が俺に背中を向けて歩きだす。


急げ
引き止めろ
今止めなかったら
大事な存在を
失ってしまう…

―パタン…

頭の中の忠告で俺の身体が動く事はなく、虚しい音が頭に響く。

そして静まった部屋に響くのは
俺の涙を堪える声。

俺に涙を流す資格はない。
何よりも大事なあいつを
俺の勝手な感情で
傷付けた…


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