□わがままな僕
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『跡部…またかよぅ…』

電話越しの呆れたような、諦めたような神尾の声。

『なんでまた急に海なんだよ?』
「行きてぇからに決まってんだろ」
『俺に拒否権は…』
「ねぇな」
『…はぁ…』

重たい溜息が耳に届く。
だけど俺は何も気にしない。
何故なら…

『…何処行きゃいいんだよ…』

ほら、すぐ了承の言葉。

当たり前だ。
拒否権はないと伝えた。
神尾がこれから俺と海に行くのはもはや決定だ。





俺の思い付きで神尾を振り回すのは今に始まったことじゃない。

俺が会いたければ会う。
俺が眠くなれば寝る。
俺が腹を空かせば食う。

今も。
俺が海に行きたいから行く。

神尾はそれに呆れながら
必ず付いて来る。




「そんなに海が見たかったのか?」

近場の海岸へ着いた。
神尾は神尾で突然の海への来訪も、海へ足を浸けたり、波を追い掛け、追われる波から逃げたりと楽しんでる。

それを眺めていたら、こちらへ近付き問い掛けてきた。
遊び疲れたのか、俺の隣に座る。

「…まぁな」

俺の曖昧な返事を不思議に思ったらしいが、その視線はすぐ海へ。


俺は今
一つの嘘をついた。

海が見たかったわけじゃない。
でも海に来たかった。

海を背負った神尾を見る為に…


「…キレイ…」

神尾が小さく声を上げる。
その声に顔を上げれば、視界いっぱいにキレイな夕焼け。
海に反射して不規則に光りを俺たちまで届ける。

「な、すっげキレイ…」

キレイだ…
何よりもキレイな夕焼け。
あの鮮やかの色合いは
もってあと20分。

でも
俺の隣にいるこいつ。
キレイなものに素直にキレイだと感動し、それを俺に伝えようと、俺と共有しようと手を静かに握ってくるこいつの心キレイさ、純粋さは…
きっとあと200年…

ずっとずっと
輝き続ける。

それがお前。



夕陽が沈んで闇に包まれる前に俺たちは並んで帰路に着く。

行き先はもちろん
2人で俺の家。


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