誰 愛

□第十話
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「あっ!臨也テメェ!何逃げてやがんだ、ノミ蟲野郎ォ!!」



静雄がそう叫ぶと、臨也は走りながら顔だけを静雄に向け、言った。



「アハハ!安心しなよ、シズちゃん。もうひなたに手は出さないよ!」

「安心なんかできるか!テメェのことだ、そんなこと言って、どうせ何か企んでやがるんだろ!」



それを聞いた臨也は、足を止めて完全にひなた達に向き直った。



「信用ないなぁ、俺。…なら、ひとつ教えてあげるよ」

「いらねぇ。ノミ蟲野郎の情報なんざ、誰が欲しがるかってんだ!」

「酷いなぁ…」



大袈裟に肩を竦めて言う臨也の様子からは、とても本心とは思えないが。


寧ろ静雄は、そのふざけた様子に尚更機嫌を悪くし、奥歯を噛みしめて臨也を睨んだ。



「そんなに苛立つかないでよ」

「…誰のせいだと思ってやがるんだぁ〜…あ"あ?」

「さぁ?俺じゃないことは確かだけど…短気過ぎるシズちゃんのせいじゃないかなぁ?」

「…テメェのせいに決まってるだろぉ〜…イ〜ザ〜ヤ〜君よォ!!」



―ギッ、ギギギ…



『! し、静雄くん…痛い』



臨也の言動に苛立った静雄は、無意識のうちに力を入れていたらしく、


静雄に抱きしめられていたひなたは、痛みに顔を歪めてそれを伝えた。



「なッ! 悪い!大丈夫か!?」

『…うん、平気』

「嘘を吐くのは止めなよ。…新羅、後でひなたのこと看てあげなよ」

「それは構わないけど…珍しいね、臨也が誰かを気にかけるなんて」

「…あのさぁ新羅…俺だって人間なんだから、そういうこともあるよ」

「……………」

「ドタチンまで…そんな目で見ないでくれないかなぁ」



そう臨也は言うが、ニヤニヤしながら言うその姿からは、


…とてもじゃないが、本心だとは思えなかった。


「臨也が何かを企んでいる」という考えは、3人の中から消えなかったが…。


当の臨也はそれすら見越しているのか、不敵に笑いながら言う。



「まあ、俺の信用がないのは仕方がないとして…いつまでもこんな所にいていいのかなぁ?」

「あ"?」

『…えっと』

「こんな所?」

「どういう意味だい?」



臨也の言葉に三者三様…いや、四者四様の反応を返したひなた達に、


臨也は…今度こそ、核心を突く一言を言う。



「…遅刻だよ?」


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