誰 愛

□第一話
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グチャり……ぺちゃ……



と、ローファーを履いた足元から音がし、彼は顔をしかめる。



昨日の夜から明け方まで降り続いていたドシャ降りの雨のせいで、グラウンドはぬかるみと化していた。



そんな所を歩かされてるんだ



不快になるなっていう方が難しいだろう。





「はぁあ〜……」





なかば諦めたように溜め息をつき、



彼は、目だけを動かして周囲を見渡す。



今彼の視界に入っているのは…

3・40人程の、見るからに屈強そうな青年達の姿。



しかも――



その1人ひとりが鉄パイプや金属バット、ナイフや特殊警棒など…



まさしく“武器”と呼ぶに相応しい物を持ち、彼を取り囲んでいた。





「平和島静雄…だな」

「――だったら何だってんだ?」





青年の1人が彼、
――“平和島静雄”を睨みながら問いかける。



――が、



当の静雄は怯んだ様子もなく、ただ静かに答えた。





「この間の礼はきっちりさせてもらう。」

(“また”か……)





静雄が“また”と思ったのには理由がある。




そもそも、静雄は青年達にこれっぽっちの見覚えもない。



だから、“この間”なんてに言われても、何のことを言っているのかよく分からない。



――ただ、



こんな訳の分からない連中を静雄に仕向けた奴なら分かっている。



自分の仇敵であり、このような争いごとの種を撒き散らしては



自分を陥れようとしてくる人物に、静雄は怒りをぶつける。





(あの…ノミ蟲野郎がァ…!!)





常に何かを企んでいるかのようなそいつ顔



――“折原臨也”の顔を思い浮かべるだけで、静雄の怒りのボルテージが上がった。



――その証拠に、



静雄の整った顔には、くっきりと血管が浮かび上がっていた。



そもそも、今日は朝から何かきな臭かった。



それは、静雄の動物的な野生の勘が感じ取ったものだったが、静雄の勘は嫌な予感程よく当たる為、今日も何かあるかも知れないというのは薄々気が付いていた。

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