誰 愛
□第三話
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静雄とひなたは、1年が使用している階の廊下を歩いていた。
勿論、残りの授業(と言ってもあと1限だけ)を受ける為にだが…
その間も、2人は話していた。
普段は決して饒舌とは言えない静雄にしては珍しく、先程からひなたとの会話が尽きることはなかった。
2人共弟がいることが分かり、途中からは自分の弟の話題になっていた。
「俺の弟、幽って言うんだけどよ…昔はくだらねぇことで喧嘩ばっかりしてたんだけど、
その度に俺がキレて冷蔵庫とか持ち上げて、投げようとしたんだ」
『…うん』
ひなたは静雄の話に耳を傾けて、時折相づちを打つ。
――無視をしないでくれる。
静雄には、そういうひなたの反応、一つ一つが嬉しかった。
「その頃は今と違って、俺の力に身体の方がついて来てなくてよ…
キレる度に何か重いモンを持ち上げて、投げて――で、その度に骨折して…入退院ばっか繰り返してた」
『…うん』
「実際、その喧嘩でもよ…俺に冷蔵庫なんて持てなくて、持ち上げた瞬間に骨折して…全身の筋が伸びきっちまったんだ」
『……………』
「そしたら幽の奴、喧嘩してたのも忘れて…慌てて俺に駆け寄って救急車呼んでくれたんだ」
『…うん』
「しかも…救急車が来るまでの間、ずっと俺の傍についてて介抱してくれたんだ…
ホント、俺なんかには勿体ねぇくらいの…いい弟だよ」
『好き…なんだね。その、幽くんの事』
「好き、つーか、なあ…まあ、信頼してるんだ。幽のことはよ…」
『信頼…か。いいね、そう思える兄弟って、』
「まあ…高校に入った今でも、まだ中学生のアイツには心配掛けさせてばっかだけどな…」
『…ふふ、』
「…何だよ。急に笑って」
『ううん、何でもないよ。ただ…大変そうだなあって思って、幽くん』
「あ?」
クスクス笑いながら、ひなたは口を開く。
――自分が笑われているのに、怒りを覚えないなんて事があるのか。
と、静雄は内心驚いていた。
『だって静雄くん、よく喧嘩に巻き込まれるって言ってたでしょう?』
「…ああ」