誰 愛

□第三話
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***




静雄とひなたは、1年が使用している階の廊下を歩いていた。


勿論、残りの授業(と言ってもあと1限だけ)を受ける為にだが…
その間も、2人は話していた。


普段は決して饒舌とは言えない静雄にしては珍しく、先程からひなたとの会話が尽きることはなかった。


2人共弟がいることが分かり、途中からは自分の弟の話題になっていた。



「俺の弟、幽って言うんだけどよ…昔はくだらねぇことで喧嘩ばっかりしてたんだけど、
その度に俺がキレて冷蔵庫とか持ち上げて、投げようとしたんだ」

『…うん』



ひなたは静雄の話に耳を傾けて、時折相づちを打つ。



――無視をしないでくれる。



静雄には、そういうひなたの反応、一つ一つが嬉しかった。



「その頃は今と違って、俺の力に身体の方がついて来てなくてよ…
キレる度に何か重いモンを持ち上げて、投げて――で、その度に骨折して…入退院ばっか繰り返してた」

『…うん』


「実際、その喧嘩でもよ…俺に冷蔵庫なんて持てなくて、持ち上げた瞬間に骨折して…全身の筋が伸びきっちまったんだ」

『……………』

「そしたら幽の奴、喧嘩してたのも忘れて…慌てて俺に駆け寄って救急車呼んでくれたんだ」

『…うん』

「しかも…救急車が来るまでの間、ずっと俺の傍についてて介抱してくれたんだ…
ホント、俺なんかには勿体ねぇくらいの…いい弟だよ」

『好き…なんだね。その、幽くんの事』

「好き、つーか、なあ…まあ、信頼してるんだ。幽のことはよ…」

『信頼…か。いいね、そう思える兄弟って、』

「まあ…高校に入った今でも、まだ中学生のアイツには心配掛けさせてばっかだけどな…」

『…ふふ、』

「…何だよ。急に笑って」

『ううん、何でもないよ。ただ…大変そうだなあって思って、幽くん』

「あ?」



クスクス笑いながら、ひなたは口を開く。



――自分が笑われているのに、怒りを覚えないなんて事があるのか。



と、静雄は内心驚いていた。



『だって静雄くん、よく喧嘩に巻き込まれるって言ってたでしょう?』

「…ああ」


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