誰 愛

□第五話
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『――はあ、はっ…はあ…』



夕闇に染まった池袋の街…


ひなたは路地を、息を切らせて走っていた。


時折後ろを振り返り、自分を追って来る人影が減っているか確かめるが…


人影は減るどころか、逆に増え続けてひなたを追って来る。



『(どうして…?)』



ひなたを追って来る人影が持っている物が…


自分を縛るためのロープが、


自分を殴るための鉄パイプが、


自分を斬るためのナイフが、


ひなたの思考回路をことごとく遮って、上手く頭が働かない。


唯一、理解することが出来たのは…“あの人達は敵”だということだけだ。


だから、ひなたは逃げている。


逃げなければならない。と、頭の中で警報が鳴り続けている。


それに急かされる様に…必死に足を動かして、動かして、動かして…


まるで、鬼ごっこをしている様な錯覚すら覚えながら…いや、


ある意味、リアルな鬼ごっこの追われる側となってしまったひなたには…


止まることも許されず…逃げることしか出来ない。




『(息が上がって…フラフラしてきた…!)』



いくら体力があるとは言え、所詮は女子の基準での話だ…


大勢の人…しかも、男に追いかけ回されては…体力や運動神経はやがて、無意味なものになっていく。



『(どうしよう…わき腹痛いし、足が、重くなって…)』



いくつもの路地や脇道を曲がり、何とか追っ手の男を撒こうとするが…


体力が次第になくなってきて…追っ手との差は、広がるどころか狭まっていた。


乱れた呼吸を一度整えたかったが、今動きを止めれば確実に捕まってしまうだろう。



『(逃げなきゃ…!)』



だからひなたには…“ひたすら逃げる”という選択肢しか、なかった。


走り続けたため酸欠ぎみになり、フラつく身体で既にいくつ目になるか分からない脇道を曲がった。


――刹那、
ひなたの左下腹部に何かが当たる。


同時に、視界には黒い何かが目一杯に広がり…



―バチッ―



何かが跳ねる様な音と共に、下腹部から伝わる振動に身体をビクリ、と震わせて…



『(・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・)』



ひなたの意識は、手放された。


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