誰 愛

□第七話
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―ミチり―


―と、肉が、骨が。


歪んで軋む、音がした。


続いて、


―ドサ…―


―と、何か重みのある柔らかい物が落ちるような、倒れる様な…音。


そのどちらも、この廃工場には似つかわしくない音で、聞く者に違和感を感じさせる。


だがそれが、平和島静雄に顔面に裸拳を叩き込まれた男の顔が歪み、床に倒れた音だ。


―と、言われれば。


「そうか」と、妙な納得をしてしまう…音だった。


とにかく、平和島静雄の理不尽で強大な暴力によって、


悲鳴を上げる隙もなく、意識をどこかへ吹っ飛ばされたチーマーの男は廃工場の床に倒れ、


そのチーマー男の100人近い仲間はただ呆然として、その様子を眺めていることしか…できなかった。


沈黙に包まれた廃工場の中で。静雄は男を殴った状態で固まっていた体勢を直す。


…ゆっくりと。


実にゆっくりと行われた、その動作に誰ひとり。


静雄を除く、集団よりも軍団に近いチーマー達は…動くことができなかった。


その理由を、チーマー達は既に理解していた。



…自分達が、平和島静雄の女だと言われた少女を攫い、人質にしたから。


だからこそ、静雄はこの廃工場に来たのだ。


―だが、


それだけのことでは、チーマー達はこんな心持ちにはならなかっただろう。


彼等は今。悲鳴を上げて、この場から逃げ出したいと脳に訴える身体を…必死に押さえつけていた。


何故彼等は、自分達が人質まで使って呼び出した男から逃げ出したいのか。


…その理由は、たった一つ。


彼等は、静雄が廃工場に現れた時から静雄が纏った空気の意味を感じとっていたからだ。


それは…紛れもない、怒り殺意。


静雄の中でボコボコボコボコ。と、音を立てて煮えたぎる。その感情は…


静雄と対峙している者に、彼が纏っている空気として…伝わっていた。


―震えている。


チーマー達は、静雄の纏う空気に…“平和島静雄”という存在に恐怖し、震えていた。


そんな漠然とした空気が広がり、沈黙に包まれる廃工場の中。



「おい」



静かだが、怒りと殺意に満ちた低い声が…響いた。


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