誰 愛
□第八話
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池袋、
川越街道沿いの高級マンション
すっかり日の暮れた時間に、そこのある一室のドアを叩く音が響いた。
-ドン!ドンドンドン!-
「新羅ッ!新羅ァ!いねぇのか!!」
近所迷惑もわきまえず、ドアを叩く音と共に聞こえたのは、男の怒声。
「新羅ァ!!!!」
「聞こえてるよ、静雄」
「だったらさっさと開けやがれ!!」
「ぅわあ!?開けるよ!今すぐ開けるから、家の玄関を壊すのは止めてくれ!」
ミシミシと音を立て、今にも枠から外れてしまいそうなドアを見た新羅は
慌ててドアを開け、静雄とひなたを迎え入れた。
「遅ぇんだよ!」
『……………////』
「……えーと…何だい、この状況は?」
新羅の言った“この状況”とは、静雄の両腕で抱きかかえられた…
所謂、お姫様抱っこをされて頬を染めているひなたと、
余程焦っているせいか、そんなひなたに気付かない静雄の2人が、自宅マンションの通路に立っている“状況”のことだ。
「…静雄。今の君は焦っているから何とも思っていないだろうけど、後になってから思い出して、照れたりしないでね」
「あ"?…何ワケ分かんねぇこと言ってんだ、新羅」
「…いや。それは静雄が後々理解することだろうし、僕が言う必要はないよ」
「テメエの下らねぇ話しはいいんだよ。…さっさとひなたの手当てしろ、新羅」
「勿論。…喜んで手当てさせてもらうよ」
『…ありがとう、新羅くん』
ひなたがお礼を言うと、新羅はニコッと笑って、
「まあ…玄関で話し込むのもなんだし、取り敢えず上がってよ」
そう言って、静雄とひなたを自宅に入るように促した。
『…新羅くんの家、広いね』
一度に十数人が寛げそうな、広いリビングを見渡して、ひなたが言った。
「家賃を払っているのは父さんだから、僕は何もしていないけどね」
「…新羅の家なんてどうでもいいだろ。…新羅」
「分かってるよ。…ひとまず、ひなたさんはここに座っていてね」
そう新羅が指差したソファーの上に、静雄はゆっくりとひなたを下ろした。