誰 愛
□第十話
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『…何で、淋しそうな目で笑ってるの?…辛くないの?』
ひなたの言葉に、その場にいた4人は、時間が止まったようになった。
ひなたを抱きしめていた静雄は、ひなたの言ったことが理解できないのか、完全に固まっている。
普段は落ち着いている門田も、さすがに予想外だったのか、目を見開きひなたと臨也を交互に見比べた。
新羅も驚いたらしく、いつもの笑いが消えた顔で、右手でメガネを上下させながら、しきりに瞬きを繰り返した。
ひなたにその言葉を言われた張本人であるはずの臨也も、きょとんとした顔でひなたをまじまじて見ていた。
…この状況を、なんと言うべきなのか。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
『……………』
来神高校や、学校外でも有名になっている人物も含めた者達が、
ひとりの少女の言葉に、揃いも揃って放心してしまっているのだ。
今ならば、臨也が何も仕組まなくても、この状況を「チャンス」だと思い、襲ってくるかもしれない。
最も、そんなことをするとすれば、池袋の内情に詳しくない余所者か、
…余程、命知らずの馬鹿かであるかのどちらかだろうが。
「……は」
そんな沈黙を破ったのは、その言葉を問われた臨也だった。
「ハハ…アハハハハハハハ!」
『……?』
突如笑い出した臨也に、真っ先に反応したのは…やっぱり静雄だった。
「オイ、…臨也テメェ何笑ってやがる!」
静雄が今にもひなたから離れ、臨也に掴みかかるのではないかというところで、
門田と新羅もようやく、意識が現実に戻ってきた。
門田は取りあえず(殺し合いの)喧嘩に発展しそうなので、静雄に近づいて宥めようとする。
新羅は顎に手を当てて、ひなたが言ったことを考えているのか、「ん〜…」と唸っていた。
「ハハハハハハハ…、いやぁ。君は本当に面白いよ…“ひなた”」
『えっ…』
今までずっと、フルネームで呼ばれていた臨也に突然名前呼びされ、今度はひなたが動きを止めた。
「もう少しひなたと話していたいけど、今日はどうしても外せない用事があるんだ」
『はあ。…そうですか』
「じゃあね!」
そう言うが否や、臨也は走ってその場を後にした。