誰 愛

□第十三話
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そこは…薄明かりにぼんやりと照らされた、広い部屋だった。


大きな窓を覆うカーテンの隙間からは、白み始めたばかりの空が見えた。


まだ、日も昇っていない…早朝なのだ。


そんな薄暗い部屋の中で少年…折原臨也はデスクに向かっていた。



「それにしても、、あるところにはあるんだなぁ…」



臨也は、手に持った小さな木製の箱を眺めながら…呟いた。


その箱の蓋にはアゲハ蝶の絵が彫ってあり


箱だけを見ても、かなり高価であることが分かる。



「宝石で出来た駒なんてさ…」



そう言いながら、臨也は箱の蓋を静かに開けた。


その中には、海を固めたように澄んだブルーの……チェスの駒があった。



「QUEEN(クイーン)…俺としては姫が良かったんだけど…
PRINCESS(プリンセス)は、、チェスに存在しないから…仕方ないか」



奇妙な独り言を言いながら、臨也は右手の人差し指と親指でその駒を掴み上げた。


ブルーの宝石で出来たクイーンは、臨也の指に挟まれたまま


カーテンの隙間から差し込んだ朝日を反射して…輝いた。


そのキラキラとした輝きに満足をしたのか…臨也はニヤリと笑い



「…アクアマリン」



そう……呟いた。



「海は、、表面上は穏やかだ。…だけど、時には荒れ狂う…人間の力じゃどうしようもない。
それに、一度潜り込めばそこは…どこまでも深い闇の世界だ。
過去という名の闇を抱える君には…ぴったりだと思うだろ?」



臨也はそこまで言うと、着ていた制服のポケットから


普段…情報屋として使用している黒い携帯を取り出し、それを開いた。



「……ねぇ、ひなたさん?」



臨也の紅い瞳には…画面に映し出された後ろ姿の青年は映っておらず


その隣りを歩いているらしい…漆黒の髪をした少女だけを見ていた。



「シズちゃんは……君を深海という闇から救い出してくれるのかなぁ?」


クスクスと笑いながら…臨也はチェス盤に並んだ白のキング、ビショップ、ルーク、黒のナイトを眺め


少しの間、何かを考えて…白のキングに寄り添わせるように、クイーンを置いた。


その配置が気に入らないのか、黒のナイトで白のキングを倒してから


嬉しそうに笑った臨也は部屋を出て…学校へと向かって行った。


ひなたに、ある場所へ案内されるのを…心待ちにしながら。


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