誰 愛
□第三話
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『だから、幽くんはその度に静雄くんを心配して大変そうだなって、思ったの』
「…そうかよ」
少し…ほんの少し馬鹿にされた気がして、思わずムッとする静雄。
――と、
ひなたは静雄の表情に気付いたのか、小さく「ごめんね」と、呟いた。
そんなひなたに、静雄は「子どもみたいな態度だ」と、自己嫌悪した。
「…情けねぇな」
『…静雄くん、何か言った?』
「何でもねぇよ。気にすんな」
『?…分かった』
納得が行かないのか、ひなたは首を傾げたが、静雄の言葉に素直に従った。
…そんなひなたの動作に胸が高鳴ってしまう静雄は…
「(赤くなるな、俺の顔がァ!!もし少しでも赤くなってみやがれ…ただじゃおかねェ!!)」
…自分自身に、訳の分からない脅しをかけていた。
***
2人がそんな会話をしているうちに、気が付けば教室に着いていた。
「…もう着いたのか」
『早いよね。それだけ話に夢中になってたってことかな?』
「だな…そうだ」
『どうかしたの?』
何かを思い立ったらしい静雄にひなたは不思議そうに言葉を返した。
「俺のダチに会わしてやるよ」
『静雄くんの…友達?』
「ああ…闇医者の息子で、どうしようもねぇ変人だけどな」
『えっ!?』
「まあ…悪りぃ奴ってわけじゃねぇし、安心しろ」
そう言いながら、静雄はひなたの頭に触れる。
…力を入れ過ぎないよう、細心の注意を払って優しく…ひなたを撫でた。
『は、はあ…?』
「ほら、入んぞ!」
ドアの取っ手に手を伸ばし、横を向いた静雄は耳まで赤くなっていた。
『(照れてるのかな…?)』
ひなたはそんなことを思いながら静雄の横顔を見ていた。
静雄が乱暴に教室のドアを開けると、中にいたクラスメート達が雑談をやめて視線をこちらに移してきた。
授業中とは言え、グラウンドでの騒ぎを見ていたのか…
最初は畏怖の込められた視線が静雄に注がれる。
――が、
その静雄が漆黒の髪の美少女を連れ立っていたことにより、
視線に込められた感情は、畏怖から好奇と疑惑へ塗り替えられた。