誰 愛

□第四話
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『えっと、止めてくれてありがとうございます。
でも静雄くんは…そんな人じゃないですよ』

「…は?」「えっ?」



同時に疑問の声を上げた2人にぺこりと上半身を折り曲げ、頭下げる。


呆然としてる2人をその場に残して、ひなたは教室内に駆け出した。


ロッカーを持ち上げて立ち尽くしている、長身細身の金髪の青年に…


寄り添う様に、漆黒の髪を揺らしながら少女が駆け寄り…その隣りに立った。


その様子に…廊下から教室内を畏怖と好奇心を抱いて見ていた野次馬達は、騒然とした。


(おい…あの女子ヤベーぞ!!)
(キレて暴れた“アイツ”に…)
(“平和島静雄”に近付いた!?)
(あの“喧嘩人形”だぞ!?)
(コレ、マズいよね…?)
(あの子、何かされるんじゃ…)
(ちょ、誰か助けてあげなよ!)
(馬鹿言え!!)
(もし、逆らってみろ…)
(こっちが殺されるぞ!!)


騒ぎ出す廊下の様子は気にしないで、青年と少女…静雄とひなたは話し出す。



「…ひなたか」

『…うん』



ひなたを確認した静雄は…持ち上げていたロッカーをひなたの反対側に降ろした。


「あー…そう言や一緒に帰るんだったな…悪い」

『暴れたことなら…謝らなくていいよ。
だって静雄くんは…意味もないのに暴れたりしないって、分かってるから』

「…そうか。…ありがとな」

『……?』

「ちゃんと俺のこと…分かっててくれてよ…」

『…他の人達はきっと、よく知らないから静雄くんを誤解してるんだよ』

「ひなたは…本当にすげぇよな」

『私が…凄い?』

「…ああ。だってよ、今日初めて俺に会ったってのに、俺とこんな風に話せるなんてよ…」



静雄は、本当に感心したように…笑顔を向けて言った。


ひなたに笑いかけるその表情からは、彼がこの壊滅状態を作り上げた張本人だとは思えなかった。


静雄に応える様に、ひなたもまた…穏やかな笑顔で静雄を見つめた。


その笑顔を向けられた静雄は、気まずそうに視線を逸らす。


彼なりの照れ隠しなのか…右手で自分の後頭部をガシガシと鷲掴む様に、掻いた。


恥ずかしい様な、どこか照れ臭い様な…微妙な空気を発している2人を…


破壊された窓から入り込んだ…少し強い風が、撫でる様に包んだ。



その風は…綺麗にブリーチした静雄の金髪と、ひなたの染めていない…背中まである漆黒の髪を靡かせる。


風の行方を追う様に、ゆっくりと振り返った2人が見たのは…


教室内の2人の人物が、自分達の予想に反して争わずにいたことに、驚愕している野次馬と…


その野次馬の中で、何か意味深な笑みを浮かべ…


静雄とひなたに向けて手を振っている…新羅の姿だった。


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