誰 愛
□第五話
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夕闇に染まった池袋の街…
ビルの屋上で1人、傍観者に徹している黒髪の少年は、自分の思惑通りの状況に…
只ただ…嗤っていた。
少年が集めた集団が、漆黒の髪の少女――ひなたを執拗に追いかけ続けている…
「さて…神宮寺ひなたさんはだいぶ疲れてきたみたいだねぇ。
…そろそろ頃合いかな?」
少年の眼下でいくつもの角を曲がり、追っ手を撒こうとして走り続けるひなたを…
しっかりと、手にした双眼鏡で捉えながら…少年は、顔を歪めて嗤い続ける。
――不意に、
少年の眼下にいる追っ手に…奇妙な動きが起こる。
ひなたを追いかけている集団の中から、黒い服の男が1人抜け出し…
裏道を通って、ひなたの行く手…少し先にある脇道の曲がり角に立った。
…その手には何か…小さい、黒い物体が収まっている。
その様子に少年は…目を細めて嗤う。
細められた目の中で、紅い瞳が妖しく煌めき…少年の眉目秀麗さに、妖艶さが拍車をかけた。
――そして、
少年の眼下での騒ぎは…一時的な、終わりを告げる。
追っ手から、フラつきながらも逃げ続けるひなたがある脇道を曲がった瞬間…
その曲がり角で待ち伏せていた、追っ手の1人が…手にした黒い物体を、ひなたの左下腹部に押し付けて…
―バチッ―
と言う音と共に、青い火花が散る。ひなたは身体をビクリ、と震わせて…
そのまま意識を手放し、その男の腕の中へと倒れ込んだ。
それを見た少年はまた…嗤う。
「改造スタンガンだからねぇ…市販のヤツよりも、遥かに威力があるんだよね。
神宮寺ひなたさんには、少し酷だけど…シズちゃんを愕然とさせるには…シズちゃんを苦しめるためには…
君みたいな…酷い目に合う哀れな犠牲は必要なんだよ」
そう言いながら、少年は双眼鏡を持ち替えて、右ポケットから黒い携帯電話を取り出した。
「さて…俺は俺で、次の手を打たせてもらおうか」
着信履歴の中から、ある番号を探し出して…電話をかける。
「…もしもし?先程連絡した情報屋ですが…
スタンガンはお役に立ちましたか?…そうですか、それはよかった。
で、この後についてですが…」
少年は淡々と、この後ひなたをどうするかなどを電話の相手に指示した。