誰 愛
□第六話
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街の外れにある廃工場内で、携帯電話を持ったままの男はただ…固まっていた。
男の周りには、いかにもガラの悪そうなチーマー風の男達。
その人数はざっと…100人はいるだろうか。
その、誰も彼もが三流の悪役の様な顔に…恐怖と困惑の表情を浮かべていた。
彼等にそんな表情をさせたのは…彼等の中心で携帯を持っている男。
―だが、
何もその男が、彼等を脅した訳ではない。厳密に言えば、彼等を恐怖と困惑で支配したのは…
先程、彼等の中心にいる男と電話で話した相手が、最後に告げた一言。
100人はいるであろう。彼等を固まらせたその相手の、低く響いたその言葉には…
怒気、敵意、殺意…この感情を込められて、言い放たれた。
《テメエら全員ぶっ殺す!!!!》
…ゾクリ。と、携帯の受話器を通して聞こえてきた声は、彼等に寒気を感じさせる。
反論を返す隙もなく、相手の側から強制的に切られた通話に…
彼等は実感する。
自分達は…とんでもないことをしたと、実感する。
彼等のいる廃工場の奧。手足をロープで縛られて床に転がされている、意識のない…漆黒の髪の少女。
彼等は情報屋を名乗る者に言われ“ある人物”を倒すために、この少女を攫ったのだが…
そのお陰で、脅して呼び出そうとしたその人物に“殺す”宣言をされたのだ。
“来神高校の金髪”
“自動喧嘩人形”
“平和島静雄”に、喧嘩を売ったことを…彼等は後悔していた。
「び、ビビんじゃ…ビビんじゃねーぞ、オメエら!」
彼等の中心にいる男が、震える声で怒鳴った。
威厳も迫力もない。何とも情けない声を出した男に、周りにいた男達は同じく震える声で、答える。
「け、けどリーダー。こ、これから…どうするんすか?」
「ど、どうするじゃねーだろ!こっ、これから、この廃工場に来る平和島静雄を…殺りゃあいいんだよ!」
どうやらこの男は、チーマー達のリーダー格らしかった。
そして…不安にかられたチーマー達は更に、そのリーダー格の男に詰め寄る。