誰 愛
□第六話
3ページ/10ページ
「けどリーダー…ホントに大丈夫何すか?平和島静雄の女なんて攫って…」
「なっ…オメエら、何言ってやがる!いざとなったら、平和島静雄の女を盾にすりゃあ何とでもなんだよ!」
そう言って、自分達が縛り上げて床に転がした少女を…身体の向きはそのままに、首だけで振り向いて眺める。
こんな危機的状況の渦中にいるというのに、少女は深い呼吸を繰り返し、眠り続けている。
まるで…死んでいるかの様に。
「平和島静雄の女…起きないっすね」
「あー、例の情報屋が寄越した薬のせいじゃねーのか?
“もし目が覚めてもしばらくは意識が朦朧として、自分の意志では動けない”とか、言ってやがったしよ…」
「だったら、何も縛る必要ないんじゃないすか?…あれじゃあ逆に、平和島静雄の怒りを買うだけなんじゃ…」
チーマー達は、よほど平和島静雄を怖れているのか、先程から不安を煽る様なことばかり言ってくる。
その言葉に案の定、煽られてしまったリーダー格の男は、冷や汗を流しながら答える。
「何だオメエら、怖ええってのか!?今更ビビってんじゃねー!」
こんなことを言っている彼自身も、先程までビクついていたのだが…
自分のことはすっかり棚に上げて、男はチーマー達を怒鳴った。
「大体オメエらよ…悔しくねーのか?平和島静雄に散々やられて、何とも思わねーのか!?」
「そりゃあ、悔しいっすよ…」
「だったら大人しく、俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!
高校生のガキにナメられたままでたまるかってんだ!」
実際は…彼等はリーダー格の男ではなく、平和島静雄の女のことや、その女である少女を眠らせる薬を彼等に渡した人物。
情報屋を名乗る男の言うことを聞いて、動いていた訳なのだが…
彼等はそのことに気付いていないのか、はたまた気付いていないフリをしているのか。
…その答えは、彼等自身にしか分からないだろう。
とにかく、リーダー格である男の言葉に、気を引き締めた100人近い集団である彼等は、再び廃工場の中と外に別れて、平和島静雄を待っていた。
―だが、
彼等が待ちわびている張本人である、平和島静雄は…
ある人物の悪意に邪魔をされ…
廃工場へ辿り着くのが遅くなっていた。…そのことを、彼等は知らない。
標的の人物がなかなか現れないことに、彼等は次第に苛立ち、やがては…その感情がピークに達する。