青の祓魔師

□馬鹿は風邪引かない。
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今日は大人しく休む事にした桐は、代わりの任務を片付ける様に、四神達に頼むと、ベッドに横になった。

「……だるい」

そのままごろごろと寝返りを打つ。

「……あーくんに会いたい」

ぽつりと呟くが、その言葉は誰もいない部屋に虚しく響く。

「……会いたいな…」

視界が暗くなってくるのに従って、静かに目を閉じた。






額がすごく気持ちいい。冷たくて、しっとりしてて、頭が冷えていく。すぐ傍で、水のはねる音がする。

うっすらと目を開けてみた。

「……」

何も見えない。人の吐息が、耳の少し遠くで聞こえる。

「……だれ」

微かに口を動かすと、相手が顔を上げた。

「誰って……桐、僕の顔も忘れたんですか」
「……アマイモン……?」
「今日桐が任務を休んだと聞いたので。兄上に場所を聞きました」
「……会いたかった」

優しく、その鋭い爪が刺さらない様に気を遣いながら、頭を撫でる彼をそっと見た。桐は熱に侵された頭で考えていた、たった一つの思いを、ぽつりと呟いた。

ただ、叶った事での思いだったが。


アマイモンは目を丸くした。次の瞬間、横になっている桐の体を下の方からすくいとって己の胸に抱き寄せた。

「…ごめんなさい」
「……なにが」
「桐がそんなに僕に会いたかった事を……気づけなかったなんて最低です」
「いや、でも…」
「桐。…僕は桐を愛してます。けれどそれに応えなければ意味がないとも考えてます。だからこそ、桐が僕を呼んだのにも関わらず、すぐに行けなかったのにはすごく後悔します…」

本気でしょぼんぬになってしまったアマイモンの首にぶら下がる形で、こちらからギュッと抱きしめてやる。

「……来てくれて、嬉しい。……すごく」

首筋にアマイモンの髪が軽くかかる。

「……桐ってば、可愛いです」

アマイモンは優しく桐を抱きしめた。

「あっ…でもあんまりやると熱上がっちゃいますかね……」

桐は名残惜しげに手を引きかけたアマイモンの手を引き止めた。

「…桐?」
「……め、行かないで」

アマイモンは溜息をついた。

「どこも行きませんて…。熱出すと桐は人格変わりますねぇ」

飴を口に放り込みながら、桐の手と自分の手を絡める。

「……アマイモンの手、冷たい」
「…気持ちいいでしょう」
「……うん」

それはよかった、とふわりと笑む彼は本当に桐だけのものだった。

「何か具合悪いところとか、あります?」
「…起き上がると目眩がする」
「大人しく寝てないからですよ」
「1回目はあーくんが起こしたんじゃん」
「……今はすぐ横になってください」
「…僕はアマイモンと手繋いでたい」
「………」
「抱っこすれば出来ると思うけど」
「仕方ないですね…。特別ですよ?」

アマイモンはふわりと桐を抱き上げ、布団に寝かせた。

なぜ桐が布団かというと、「ベッドが固いから」らしい。ゲヘナにある寝具も一式和布団である。

「眠くなってきた…|」

ふわ−、と欠伸をするとふっと目を閉じ、次の瞬間にはもう健康的な寝息を立てて爆睡していた。

「相変わらず寝るのは化物並に早いなぁ…」

化物じゃなくて半悪魔か、と小さく言い直してアマイモンは布団の横に胡座をかいた。

ポケットから飴を取り出し、口に放り込む。

「桐の為に新しい飴を仕入れたのに…」

左ポケットに入ったままの飴缶を取り出す。
そのイギリス製の飴は、先日桐と輸入品を取り扱う店に行った時に桐がすごく欲しがっていた、ハッカ飴の中にチョコレートが入っている珍しいものだ。

よく母様に貰ってた、と話してくれた桐を思って、無理を言って兄に取り付けさせたのである。

「桐、……」

名前を呟きながら頭を撫で、髪を梳いた。母親譲りの、見事なグラデーションのかかった髪。色素の薄い青から下の方へ行くにつれて紺、群青へと色を変えている。

最後には闇色になるのだが、日光に透かされた髪はキラキラと光って見る者の目を楽しませる。

優しい手つきで髪を撫でていると、部屋の中に見慣れた物を見つけた。

「……僕の、写真?」

セピア色に加工してあるが、極々最近のものであることがわかる。
写真の中の自分が視線をこちらに向けていないところを見ると、恐らく眷属達に撮らせた物か、隠し撮り(盗撮ともいう)とかいう可能性が出てくる。

「……桐」

アマイモンは写真がいつの物なのかを把握していた。
確か、桐が長期任務に出かける際、支えが欲しいと言っており、その日の夜間巡回の時に暗視カメラを持ち込みアマイモンが見た限りでは12枚程を撮っていたはずの時の事だ。
ポージングも、表情も、どれを取っても美しかった。桐の性格からして恐らく、これを撮って満足し、前のメモリを削除したのだろう。

「……あーくん……」

不意を突かれ、勢いよく後ろを振り返るが、そこには安らかな寝息を立てる桐の姿があった。

「驚かせないで下さいよ…」

アマイモンは写真を棚に戻し、桐を起こす作業に入った。

「ほーら、桐、起きてください」
「…んん…」

嫌だ、と抵抗が返って来る。

「黄色の王様、最新刊出ましたよ」

ガバッ

「マジ!?」
「…やっと起きましたか」

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