main(薄桜鬼)
□空洞(芹沖)
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「あ…猫…」
ぶらぶらと散歩をしていたら、前川邸から猫が出てくるのを発見した。
主の居なくなった屋敷に、いつの間にか野良猫が居着いたのだろう。
芹沢さんは暗殺される前に、平間さんと井吹くんを逃がした。
平間さんは自らの手で、井吹くんは僕に頼んで。
全てを悟ったような目をして、相変わらずの上から目線で優しく頼む彼がどうしようもなく悲しかった。
『居着いたと思えば気まぐれで姿を消す。まるで猫のような奴だ。』
ふ、と笑う声が耳元で聞こえるような気がした。
猫を抱き上げて膝の上に乗っける。
動物には人間の気持ちが分かるのだろうか、少し擦り寄ってそのままじっとしている。
「猫のようなのは、貴方の方じゃないか。」
いつの間にかこんなにも、僕の心にふんぞり返ってさも当たり前のようにどっかりと腰を下ろして、自分勝手に居なくなった。
失った時にどんなに大切だったか気が付く。
それはきっと、心のごっそり抜け落ちた部分が空洞になるからだろう。
「形見のひとつくらい、残して下さいよ…」
文句なんて言っても言い足りない。
この空洞はどうすれば埋まるのだろうか。
猫をそっと逃がし、人知れず自嘲的な笑みを浮かべた。
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