main(薄桜鬼)

□蛍火(芹沖)
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夢だ、とはっきり自覚していた。

墨で塗り潰したような暗闇。

足のつく感覚が無い。

否、方向が、無いのだ。

何処に進んでいるのかも、何処を向いているのかも分からない。

それでも歩き続けなければならない。

呼吸は出来るのに酸素が無い。

下から、上から、背後から、僕を押し潰そうと黒が迫ってくる。

必死で振り払って逃げようとするけれど、身体が動かない。

危険だ、と頭が信号を発しているのに、何か諦めに近い感情に僕の全てが支配されてしまう。

いっそ潰されてしまった方が楽なのではないか。

思わず、自嘲するような笑みを浮かべる。

ふっと、顔から指の先まで、全ての筋肉を弛緩させる。

黒がうねうねとした手を伸ばして、僕を締め付け、笑った。

いきなり恐くなった。

やめろ、離せ…

酸素の無い空間では、叫びは声にならずに消えていく。

もがいても手足は宙を掻くばかりで何も変わらない。

ばたつく手の先に、刀があった。

血に濡れ、悲鳴を殺し、数多くの命が吸いとられていた。

握ろうとした瞬間に、無数の悲鳴が頭に響く。

僕は、頭を抱えてうずくまった。

いつの間にか黒い手は、元の暗闇に溶け込んで消えていた。
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