体が重い…
必死にする息も、もはや止めてしまおうかと思うほど辛い。
浅い呼吸は、意識を保つだけの酸素しか与えてくれず、両腕は私の肩からただぶら下がっているだけ。
まるで何時間も走った後みたいに、私の足は苦痛の悲鳴を上げている。
…だがもう帰れない。
帰る力が残ってないんじゃない。ふらつく足で地面に踏みとどまって、私は十歩先の彼を見つめた。
ぼんやりと霞む目に映る彼の嘲笑うかのように冷たい瞳。
緩んだ口元は私に対し、何とも言えない優越感を含んでいるようだった。
私は首をゆっくりと後ろに向けた。
さっきまで彼に向かって行った仲間達がいる。彼らは皆、紅血の中に沈んで動かなくなってしまっていた。
「心配するな。お前もすぐに同じ場所に行かせてやる…」
私の顔に絶望が浮かんでいたのだろうか。サソリはそういって私に小さく笑みを漏らした。
…冷たい声…
ああ、
私は今から殺されるんだ。
あらがう力は残ってなかった。いつも遠くから眺めていた顔が、今日は近い。いつもこっそり眺めていたその顔を、今はまっすぐ見つめることが出来た。
あなたは遠い存在だった。
超が付くほどエリートで、類まれな逸材・・・
追いつきたくて、もがいて、死に物狂いで入った特殊部隊。やっと近づいた背中。
―だけど優秀すぎたあなたの力は、この里の中だけでは溢れ出してしまっているんだろう。
・・・今また、遠くに離れていってしまう。
こんなことなら言っておけば良かった。
どうして行ってしまうのって。
どこへ行くのって。
ここでは駄目なのって。
…ずっと見てたのにって。
けどそう思ったときにはもう遅かった。
すっと伸ばされた彼の指先がわずかに動くだけで、私の体は疲れも関係なしに動き出す。ホルスターに勝手に伸びていった指が、持ち慣れたクナイを握って帰ってくる。
そうか…
彼は私なんか手も汚さずにあっさりと消せるのか。
息の詰まる苦しみは一瞬で、苦痛に表情を歪めた後は、体を操る糸が切れて世界はゆっくりと傾いていく。
想っていた瞳も、
髪も、
鼻も、
指も
口も…
でも、
全てが見えなくなる前に…
どこから出た力か自分でもわからなかったが、足が地面を蹴って、彼のほうに向った。
…―唇を重ねたのはわずかな時間。
彼は直ぐに私を離したから。
「…毒でも含んでたか?残念だが、俺にはそんなものは効かないぜ…?」
・・・そうね。
あなたに毒は効かないよね。
あなたの体に倒れ込んで、力の入らなくなった私の体は、彼を伝って落ちてゆく。
マインド(効かないと知っていても、ただ伝えたかった・・・)
fin