short~

□0.3mmの雨が降る
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「私ね、好きだったの。」


私は窓の枠に座って、外に向かってそう言った。わずかに白くなった息が口から出て消えていく。
更にハーっと息を吐いて白い煙を立てることで、私は彼との間に出来てしまった重苦しい間を誤魔化した。

この気持ってよくわからなかったけど、言葉にするなら、好き、なんだと思うんだ。

めずらしく色を乗せた頬を、彼に向って吊り上げる。
自分で聞いても可笑しいくらいに明るい声は、部屋の中にまんべんなく響いた。
それなのに彼は何にも言ってくれずに、ひたすら本ばかり見ているから、私はまた一人でベラベラと喋りだすしかなかった。

いつからかって言うと、昨日から。
多分もっと前からそうだったんだけど、ハッて気付いたのは昨日だった。

持っていたコップが手から滑り落ちて、床に落ちてガシャンて音を立てた時に、「ああ私好きだ」って。


コツコツ。
一呼吸おいて、私は頬杖をついている窓枠を指で叩いた。


不思議なもんだよ。
最初は何とも思ってなかったのに、一体どこからこんな気持ちが出てきたんだろうっていうくらい、いつのまにか侵されていっていたんだ。

「好き、なんだ。」

コツコツという音が次第に多くなる。

好きで、好きで。
自信過剰で、ばかみたいな持論を熱心に語るのを見てるのが。それをまたまた熱心に聞いているばかみたいな自分が。
いつのまにか、たまらなく。

ねぇ、私ってバカみたい?


コツン、
と最後に大きな音を立てて、何も言わない彼を振り返り、私は笑い掛けた。

彼の黒い髪が僅かに揺れる。

パタン、
と本を閉じる音と共に、彼はやっと顔を上げた。


「…なぜそれを俺に言う?」

「……だって、」





…だって一番言いたかった人、死んじゃったんだもん…



0.3oの雨が降る



この黒い髪にあの黄色を思い浮かべるなんて、私はなんてバカなんだろうって思う。それでも、行き場のないこの思いの溢れ出るのを抑えられなかった。


(いっそバカだ、と言って終わってほしかった。)


fin~

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