突然あらわれたそいつに目がいっちまう。情けねぇな、オイラ。
開いた口が塞がらねえっていうのはこういうことなんだって思いしらされた。
アジトの入口に立ち尽くす女。
肩にかかる髪が風で横になびいて、絶望を浮かべたその顔を隠していた。
「我愛羅…?」
女の瞳に写るのはオイラでも、隣にいるサソリの旦那でもなく、オイラの腰の下の風影のこのガキ。いや、以前は風影だったっていったほうが正しいな。
だって、こいつはもう…
一直線に、がむしゃらに走り寄るそいつには、オイラ達なんか写ってない。
眼中にない。
写るのは一人。
ぐったりしたそいつに触れようとした手は震えてる。
「我、…愛羅?」
オイラは知ってる。
何度そいつの名前を呼ぼうが、体を揺すろうが、二度と動きやしない。だいたいもうわかってるはずだろう?
希望を込めて持ち上げたその手が地面に落ちるのを確かめなくても、
合わせた手が握り返されなくても、
「わかってんだろ。もう死んでるってよ、うん。」
それとも、本当にわかってなかったのか?せせら笑いを含んだ声で、やっとそいつはオイラの方を向く。
最低だな、オイラ。
そういう風にしか振り向かせられない。
絶望という現実と、嘘だという思いの狭間でさ迷うそいつの瞳にオイラが映る。
見開かれた目から、銀色の筋が流れ落ちる。
泣き喚くでもなく、否定するでもない…
流れ落ちた一粒は、目の前の真実に対する反射。
女のそういう顔にそそられたのははじめてだ。
頬を伝って落ちた涙が、動かないそいつに落ちるのに嫉妬した。
瞳に写ったオイラを流し落とすのに腹がたつ。
今すぐにでも引き離してやりたいと思う、その手。
その手を掴んで、引き寄せて、何もかも忘れるくらい、オイラしかわからなくなるくらい、グチャグチャにしてやりたい。
そしてオイラのためだけに、その顔で泣いてくれ。
ただ、その思いと複雑に絡み合うもう一つの思考。
こいつが生き返ればいいとさえ思った。
だって思う
きっと笑顔はもっと…(だけど淡い願いのどちらも、オイラには与えられなかった)
fin~