頂き物

□名前も知らない旅人
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――白い霧が立ち込める中、轟々と鳴る機械音の中へと私は一歩、足を踏み出した。
先ほどの荒涼とした景色とは打って変わって、列車内は整然とした雰囲気で私を迎えてくれる。

中には2人掛けの椅子がずらりと並んでおり、既に何人かが乗車している。
あまり込んでいるようには見えないが、1人1人がその2人席を占拠しているものだから、座れる場所がない。
…常識ないなぁこの人たち。

心の中で愚痴をこぼしながら、どこか空いている席はないか、きょろきょろと探し歩く。


「(…お?)」


席を通り過ぎる寸前、その男に目が留まった。
ウサギのように真っ白い髪の頭ををこくり、こくりと揺らしながら俯いている赤い外套が印象的な長身の男。

見知った顔ではないが、どこか既視感に近い何かに誘われたのだ。
ちらりとその男の隣を見ると、丁度その隣がひとり分空いていたのでそこに座ることにした。


「よいしょ、」


その男の足に当たらないよう注意しながら窓際の奥の席へと入らせてもらう。
大きな剣がちょっと邪魔だったので、申し訳なく思いながらも壁際に避けた。
……うわ、おっきな剣。私の身長くらいありそう。

ぽふ、と無事に席に座ると、白い髪がパサリと揺れた気がした。


「……ん…?」

「あ、起こした?ごめんね。」

「別に寝てた訳じゃねえから……ん?」


その人は私の格好を見るなり、綺麗なオッドアイを驚嘆の色に染めた。
警戒するような、それでいて驚くような。


「…お前表情分かんねえな。」


きっと私がかぶっている、特注で作ったフードのことだ。深々とかぶっているせいで、彼からは私の顔が見えないんだろう。


「あはは、これが私のファッションだから許してよ。」

「センス溢れるファッションなこって。」


そう言いハッ、と笑うこの男からは、嫌味さがまったくなかった。
しかし瞳に宿った警戒の色は消えず、どこか落ち着かない様子。


「?」


どうしたんだろう、と不思議そうな私の顔を見ると、少し渋い顔をした。


「…お前、図書館の衛士だよな?」

「うん、そうだよ。」

「…なんとも思わねえの?」

「?何が?」

「……。」


目を丸くし、唖然とした顔で私を凝視する。
どうしたんだろうか。衛士に何か恨みでも持ってんのかな。

しかし、私の予想の斜め上を行き、その男はふ、と笑うと瞳の警戒の色を薄めた。


「おかしな奴だな。」

「はい?」

「いや、分からねえならいいんだ。お前が変なやつで良かったってことだよ。」

「…それはフードのことを言ってるの?」

「違えよ。むしろそれはイケてると俺は思うけど。」

「そ、そうかな。」


初めて自分のフードのことについて褒められて、どういう顔をしていいか分からなくなってしまった。
顔は見えないはずだから、表情は相手に分からないんだけどね。
でも、気持ち的な面では少し気恥ずかしいような気もする。


「お兄さんは、咎追い?」

「?何でそう思うんだ?」

「この時期に剣担いでこの辺うろついてるのって、咎追いくらいかなって予想してみた。」


ちらり、と壁に寄せた大剣を見ながら話すと、男は表情を強張らせた。

"この時期"

SS級犯罪者に認定された、とある賞金首の噂が出回ってる今、咎追いはあちらこちらに出没するようになった。
この列車内だって、きっとそれでいっぱいだろう。
…バッカみたい。


「…俺は違えよ。」

「あれ、違うんだ?」

「その、なんだ…お偉いさんの傭兵ってとこだ。」

「ああ、お金持ちの人とか?」

「そうそう。」


うんうん頷く傭兵を見て、私は納得した。
なるほど、傭兵か。それならこんな大きな剣持ってる理由もわかる気がする。


「(……こいつ、本当に知らないのか?)」




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