流水落花
□その一
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「猩くん帰ろー!」
HR終了とともにリユキが猩影のところへやってきた。
「はい、リユキ様」
「む。様付けしないで、それと敬語も」
「う、しかし」
「猩くん」
リユキはじとっと猩影を見る。猩影はリユキに上目遣いで見つめられ、言葉につまる。
「あ、ああ。わかり、わかったよ。リユキ…帰ろう」
「今変な間があったけど心の中で敬称つけたでしょ」
「はぁ〜、負けたよ。リユキ、帰るぞ」
「うん!」
にっこり笑ってリユキは猩影の大きな手を取った。それに猩影も軽く握り返す。
リユキは奴良組本家の大事な跡取り候補ではあるが、リユキにはリクオのように護衛が付いていない。それは本人の希望であり、その代わりにということで猩影がリユキと登下校を共にしている。理由はそれだけではなく、二人は小中高とずっと同じ学校に通う謂わば幼馴染であり、今では恋人という関係なのである。
「ねえ猩くん、駅前にクレープ屋さんができたって聞いたんだけど、行ってみない?」
「でもあんまり遅くなるわけには」
「ちょっとだよ。クレープ食べたらすぐ帰るから」
お願いと小首を傾げられては、猩影は断れない。そんなことを知ってか知らずかリユキはにこっと笑った。
クレープ屋はオープンしたばかりということもあって行列ができていた。しかし並んでいる間、リユキと猩影は学校での出来事や友達のことを話していたのであっという間に順番が回ってきた。
近くのベンチに座ってクレープを食べる。さすが話題になっているだけのことはあって味はなかなかのもの。
「猩くん一口ちょーだい!私のもあげる」
はいっとクレープを差し出されて、リユキは一口食べた。
「チョコもおいしいね!はい、こっちも食べてみて」
「・・・」
猩影は一瞬迷ったが、リユキのクレープを一口もらった。
「うまい」
「でしょ、キャラメルおいしいよねー」
きらきらと笑うリユキに猩影は顔が赤くなるのを自覚した。それを隠すために自分のクレープに噛み付く。だが思いっきり噛み付いたために中身が飛び出して、手に付いてしまった。
「うわっ」
「あーやっちゃたね。待って今ハンカチ出すね」
「いや、いい。あそこの水道で洗ってくる」
なんだか妙に慌てていた猩にリユキは頭にハテナを浮かべる。