流水落花


□その三
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逢魔時、それは魑魅魍魎の目覚めの刻。妖怪たちが活発になる時間である。




その時間までにはリユキを本家に送り届けようと思っていた猩影だったが、電車が混雑していたために、少々遅くなってしまった。



「参ったなー遅くなっちまった」

「大丈夫よ、少しくらい」


焦る猩影にリユキは、のほほんと答える。

「や、本家の方たちが心配するだろ」

ダメだダメだと猩影は引き下がらない。
少しでも早く本家へ送り届けなければ。


「猩くんが一緒だから、いいと思うんだどな」

リユキの呟きはそんな猩影には届かなかった。






日が沈む遊歩道を手を繋いで歩いている二人。

突然、ガサっという音と共に、植木から何かが飛び出してきた。


「リユキ!」

猩影は咄嗟にリユキを自分の後ろに隠す。
飛び出してきた何かはどうやら人型をしている。それは二人の前で蹲り、動かない。

時折、うめき声が聞こえる。



「猩くん・・・何があるの?」

リユキが猩影の影から顔を出す。そこで見えたのは・・・

「良太猫!」

リユキは良太猫に駆け寄る。

「リユキ?」

「良太猫!しっかりして!何があったの?」

「う・・・ぐっ・そ、その声は、リユキ様。・・面目ねぇ・・・」

そう言うと良太猫は意識を手放した。いたるところに傷がある。何かと争ったのだろうか。



「良太猫!・・・どうしよう・・・」

目に見えて青ざめていくリユキ。薄暗い中でも、猩影はリユキの変化を敏感に感じ取った。




「リユキ、落ち着け!とりあえず、本家へ運ぶぞ」

「・・・うん」

猩影は良太猫を抱えあげると、リユキの手を強く握った。決して離れぬように。強く。









「リユキ様、お帰りなさいませ」

本家に着くと、庭掃除をしていた首無が近づいてきた。

「リユキ様?」

いつもなら元気にただいまと言ってくれるリユキの様子が変だ。首無はリユキの様子がおかしいことに気づいて顔を覗き込む。


「首無・・・良太猫が・・・」

首無はリユキの様子とその言葉で、猩影が良太猫を抱えていることに気づいた。

「良太猫!!」

「兄貴、どこか寝かせる場所はないですか?」

「すぐに用意いたします。おい!誰か、鴆様を呼んでくれ!」

首無のその声に屋敷の妖怪たちがなんだなんだと出てくる。


「治癒は私がするわ。とりあえず、安静に寝かせられる場所を用意して!」

「ですが、リユキ様。顔色がよろしくありません」


リユキが青い顔をしているのを首無が気遣う。

猩影は先ほどからリユキが震えていることに気が付いていた。




「(リユキ、無理するな)」

そしてぎゅっと手を握る力を強めた。
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