流水落花


□その六
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リユキと猩影が恋人同士なのは、もはや周知の事実である。
それは奴良組に限らず、二人の通う学校の中でも有名な話だった。

猩影が2メートルを超える 長身なため、彼はどこにいても目に留まる。
必然的に一緒にいるリユキも学校ではちょっとした有名人だったりする。

しかし、リユキが有名人なのは、猩影とい つも一緒にいることだけが理由ではない。
リユキ自身の容姿がその原因である。所謂、可愛いのだ。まさに「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」の如 しリユキが注目されないはずがないのである。




「あ、あの!奴良さん!」

朝、昇降口で靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられて、リユキは振り返る。

「はい?」

「あ、あの、その・・・奴良さんのことがずっと前から好きでした!」

「・・・えっと、ありがとう?」

「そ、その付き合ってるって本当なんですか!?」

「ええ、まあ」

それを聞くと告白した男子はうわああと叫びながら走っていった。


「リユキ、行くぞ」

その様子を近くで見ていた猩影がリユキの手を取る。

「猩くん」

心なしか、いつもより手に力が入っている。

「・・・ああいうのはいちいち答えなくていいんだよ」

「でも、本当に用事があったら・・・」

まったく、と猩影。
先ほどは、弟の恋路を応援している風だったが、リユキは自身の恋愛ごとにはてんで疎い。猩影は溜息まじりに言う。

「だから毎日毎日、告白されるんだよ」

「・・・猩くん、怒ってる?」

猩影の様子を伺うように下から見上げるリユキ。

「あったりめぇだ」

その視線から逃げるように、猩影は天井を仰いだ。

「う。ごめんなさい」

「違う、リユキに怒ってんじゃねぇ。告白してくる男どもに怒ってんだよ」

猩影は、何かを勘違いしたようなリユキに、すかさず訂正を入れる。


そう、リユキは毎日のように告白されていた。

猩影と付き合っているということは、学校中で知られているはずなのにだ。
それは、リユキに恋をしてしまった男たちの通過儀礼的なものとなっていたのである。
彼らは、リユキへの恋心に未練なく終止符を打つために記念告白をするのだ。

全く迷惑な話である。

「あーもう。次に告白してきたやつ、斬る」

「だ、だめよ!猩くん、人間を斬っちゃあ」

こんなやりとりももはや日常である。
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