流水落花
□その六
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この日も通過儀礼を何件かこなし、リユキと猩影はいつものように二人で下校していた。
「リユキ様!」
後ろからリユキを呼ぶ声が響いて、二人は振り返る。そこには、息を切らした良太猫がいた。
「良太猫、どうしたの?」
「ハァハァ・・・リユキ様!・・・お願いです、ワシの子分を・・・助けてくれねぇですか」
「具合、悪いの?」
リユキは状況に察しがついた。リユキの能力を知っていて、医者ではなく、リユキを頼る。
それが何を意味するか・・・。
「それが、今朝方、突風が吹いたと思ったら三郎猫が急に苦しみ出して・・・その、リユキ様のお力で、三郎猫を助けてくれねぇですか!」
「猩くん・・・」
それは猩影も同じだった。
「・・・行くんだろ」
「ありがとう」
3人は化猫屋へ急いだ。
三郎猫の容態は思わしくなかった。
リユキは早速妖怪の姿に変化して、治癒を始める。
変化したリユキを初めてみた化猫組の者たちは、美しいその姿に魅了された。
「リユキ様」
「・・・これはおそらく妖怪の毒。風で切られるとそこから毒に蝕まれるのね・・・」
「三郎猫は助かるのでしょうか!?」
「必ず、助けるわ・・・でも、私の力が及ぶかどうか」
「無理はしないでくだせぇ」
リユキは、三郎猫に両手を翳す。手から淡い光が放たれ、傷口を覆っていく。
それは、暖かく、やさしい光だった。
しばらくして、苦しそうにしていた三郎猫の呼吸が穏やかになった。
リユキの力で毒が浄化され、傷口も塞がりかけている。
「三郎猫!・・・リユキ様、本当にありがとうございます!!」
「よかった、これでもう大丈夫なはずよ」
「本当に、本当にありがとうございます!」
「そんな、いいのよ。私にできることはこれくらいしかないから。猩くん、帰ろう」
待たせてごめんね、とリユキ。猩影は黙ってリユキの手をとり、横を歩く。
化猫組の者たちはリユキたちが見えなくなるまで、頭を下げていた。
そして、化猫屋が見えなくなったとき、カクっとリユキが崩れた。
「っ!」
それを猩影はわかっていたかのように受け止める。
「猩、くん・・・」
「リユキが倒れたら意味がないんだ。お願いだから、無理はするな」
「だけど、私はこれくらいしか、できることがないから・・・」
「違う、それはリユキにしかできないことだ。俺は、何もできないけど、リユキを支えたい。だからせめて俺の前で我慢するな。辛いなら言ってくれ」
リユキは猩影に抱きついた。
猩影は一瞬戸惑うが、リユキを受け止める。
リユキは、嬉しかった。猩影のこの言葉は、奴良組の息女としてではなく、女の子としての、恋人としてのリユキに向けた言葉だと思ったから。