流水落花


□その七
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「送ってくれてありがとう」

奴良家の門の前、リユキは猩影に背を向けたままそう言って、屋敷に向かっていってしまう。
猩影は、声をかける間もない。ここまでの帰路も会話らしい会話はほとんどなかった。



「リユキ様」

その様子をたまたま見ていた二人がいた。

「ささ美、トサカ丸」

「猩影殿と、何かあったのか」

「・・・」

二人は思いつめた顔のリユキを見ていられなかった。
場所を変えようということになり、リユキを連れて三羽鴉にあてがわれた部屋へ移動した。





「で、何があったんだよ?ケンカか?」

「トサカ丸、リユキ様に失礼だぞ」

「いいの、ささ美。・・・私が、猩くんにワガママだったのよ」

「どういうことだ?」

「猩くんには私を奴良家の娘じゃなくて、ひとりの女の子としてみてほしかった。だけどこんな私に付き合ってくれてたのは所詮、 ”奴良リユキ”だからなのよ 」

「そんなことはないと思うが」

端から見ても猩影がリユキに惚れているのは一目瞭然だった。
それは、妖怪任侠を抜きにしてもだ。

「猩影は十分リユキ様を好いていると思うぜ」

「どうして?」

「どうしてって言われてもなぁ、見てればわかるんだよ」





「そっか‥‥」



そう言ったリユキは、誰も気づかないほど小さく微笑んだ。
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