流水落花
□その八
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「来たね。待っていたよ、リユキ」
建設中のビルの一角で、玉章はリユキを出迎える。
「玉章。約束は、守ってもらうわよ」
「約束?」
「私があなたのもとに行くなら、奴良組のシマから手を引くという約束よ」
「考えてもいいとは言ったが、約束した覚えはないな」
「!」
突如、リユキの両隣に妖怪が現れ、リユキを拘束する。
そして玉章は一枚の紙をリユキの目の前に翳した。そこに書かれたものを見て、リユキは驚愕する。
「狒々おじさま・・・!」
妖怪狒々が描かれた上に赤い筆で×印が打たれている。
「これは、どういうことなの」
最悪を想像して否定して。
「大幹部の割りにあっさりだったね」
「そんな・・・うそよ、狒々おじさまが・・・」
しかし真相は、最悪だった。リユキの顔に色がなくなる。
「遅かったね。ここまできたらもう手を引くことはできないんだ。奴良組のシマも、君も手に入れる」
「いや!やめて!・・・離してよ!約束が違うじゃない!!」
「バカな奴ぜよ。玉章に騙された奴良組の娘」
「僕はね、リユキ。君のような奴が一番許せないんだよ!!」
玉章は捕らえられているリユキの目の前までいくと、髪を鷲掴んで俯くリユキの顔をあげさせる。
リユキは悔しさと痛みに顔をゆがめることしかできない。
「そう、その顔。そそられるね」
僕はね、リユキ。君のようなやつが一番許せないんだよ。君には権利があった。奴良組の跡取りとしての。それを君は無条件で手放したんだ。
僕が、欲しくても手の届かないものを、生まれながらに与えられた権利を。