流水落花


□その八
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「リユキ様ー朝ごはんの用意ができましたよー」

中々起きてこないリユキの部屋を訪れたのは、首無だった。
リユキが寝坊することなど、めったにない。お疲れだったのかと、首無は部屋の外から静かにリユキを呼ぶ。

しかし、当然ながら返事はない。

「リユキ様?調子が悪いのですか?」

そしてついに、リユキがいないことが奴良組の者たちに知れる。

「リユキ様!!」





リユキがいなくなったことは瞬く間に本家中に広がった。
妖怪たちは、ざわざわと落ち着きがない。それも、そのはず。奴良組大幹部であり、古株の一人でもある狒々の組が壊滅したという報告がされたのだ。

「リユキ様がいなくなった!」

「何者かが攫っていったに違いない!!」

口々に騒ぎ立てる妖怪たち、そこへぬらりひょんが現れる。

「ええい!静かにせんかい!リユキは友達のところにいっただけだ。心配するな」

「え・・・」

その言葉に、妖怪たちはやっと静かになる。
やれやれと、ぬらりひょんは朝食の席に着く。

「お言葉ですが、総大将。大猿会が壊滅し、その犯人もわからない今、リユキ様を一人護衛もなしに奴良組の目の届かないところに置かれるのは、いかがなものでしょう」

牛鬼が、総大将に耳打ちする。

「牛鬼か。まあ死にはしないさ。あいつも上手くやるだろう、ワシの孫だ」

含みのある物言いに牛鬼はさらに詰め寄る。

「それは、どういうことですかな。詳しくお聞かせ願いたい」

「’’自分にできることをする’’そうじゃ」

「!総大将!それは!」

「黙っておれ。他言無用じゃ」

静かながらも威圧的なぬらりひょんに、牛鬼は怯む。

「しかし・・・」

「黙っておれというのがわからんのか」

「はい・・・」












「はぁー」

リクオはリユキのことを考えていた。
リユキ姉は、どこに行ったのだろうか。いつもなら、誰にも告げずにいなくなるなんてことはなかった。特に親しい毛倡妓や首無も、その居場所を知らないという。

「リクオ様、電車着ますよ」

「リユキ姉、大丈夫かな・・・」

雪女の言葉も届かないほどに、リクオは考え込んでいた。こんな大変な時に、と。

そうこうしているうちにホームに電車が到着し、ホームにいた人たちが一斉に電車に乗り込む。


「うわああ」

リクオは一番前に居たこともあって雪崩れのように乗り込む人たちに押された。

「これ、何かのお祭りとかぶったのですかぁ?」  

不意に背後から覚えのある声が聞こえた。

「毛倡妓〜〜!?なんでなんで!?一体どうしてこんな護衛が増えてるの〜〜!?」

今まで気が付かなかったが、リクオの周りには、いつもの雪女と青田坊のほかに毛倡妓、首無、河童がいた。

「おいくるぅぅあ首無、河童〜〜護衛は俺たちの役目だろーが!」

護衛が増えたことに不満を隠せない青田坊は首無と河童に突っかかる。

「二人じゃ足りないってカラスがさ、なんといってもリクオ様は若頭を襲名された大事なお体ですからね。しばらくは6人体制でいくってさ!」

首無は、護衛が増えたことの理由を話す。

「ええ!?」

「俺たちじゃ力不足だってのかよ!?」

「そーいうこと。二人ともなにかと忙しいだろ。それに、狒々様が狙われたんだ、リクオ様に何かあってからでは遅いんだ」

リクオは、首無の言葉にさっきまで考えていたことを再び思い出す。
狒々が死んだ。
幹部が狙われたこんな時に、リユキは失踪した。

ぬらりひょんは大丈夫だと言うが、心配でならない。というのも、狒々は猩影の父で、猩影は姉の恋人だ。それにリユキは狒々とも仲が良かった。リユキがショックを受けないわけがない。


大猿会壊滅とリユキの失踪、何か関係があるのだろうか。


「そーいうわけです、リクオ様!このまま学校までお供してまいりますからね」

眉を寄せたリクオを見兼ねてか、毛倡妓が元気付けようとする。



「ちょっと・・・そろそろ若からはなれましょう毛倡妓!!」
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