流水落花
□その十一
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首無は確信した。
やはり、そうだったか。
リユキ様、あなたは何でもひとりで抱えすぎなのです。周りをよく見てください。あなたを支えたいと思う人はたくさんいます。どうして気づかないんですか。
あなたの隣には彼がいるのに。
「猩影、落ち着け!」
緊急総会を終えた縁側で猩影の姿を見つけた。落ち込んでいる。そう思った。気持ちが滅入っているに違いない。同じことを思ったのか、雪女もまた彼女の話を切り出しはしなかった。
「・・・でもリユキ、さま、がやつらに捕まって、実家があーなっちゃって・・・自分の血が滾んのを感じたんです」
そう言った猩影は自分を責めているのが、首無にはわかった。そこでふと、先日過ぎった疑問が再び脳内を駆けた。
「猩影、落ち着け!・・・詳しく聞かせてくれないか」
猩影はひどく、自分を責めていた。
学校の屋上で四国の大将と対峙したこと。リユキが狙われていたこと。そして自分が簡単にリユキの手を放してしまったこと。
知っていたのだ。リユキが狙われていたことを。でも自分の精神の未熟さ故に何も行動できなかった。
「本当は俺はここにいるべきではないのかもしれない。リユキ様がやつらに捕まったのはほとんど俺の所為だ」
そうしてまた拳を握り締める。
首無は今の猩影の話を聞いて合点がいった。リユキは猩影を守ったのだ。敵の目を彼から逸らさせるように。
「猩影、よく話してくれたな。でもお前はここにいるべきだ。それはリユキ様の思いでもあるんだ」
首無は猩影に、犬神の件を話した。それにはもちろん、玉章から聞かされたリユキ失踪の真実も含まれる。
奴良組の妖怪たちは幹部を除き、リユキの失踪は四国に 誘拐されたということしかしらない。
実際には誘拐ではない。リユキ自身が玉章に付いていったのだ。それは広義には誘拐かもしれないが。
「そ、んな・・・。リユキ様は、それじゃあ・・・」
今度こそ、絶望という表情の猩影。
「リユキ様は俺たちを守ろうとしたんだ」
「そんな・・・リユキ様は・・・俺は、自分のことしか考えられなかったのに。なんで!なんでだよ!?どうして気づけなかったんだ!!」
落ち着け、首無は今日何度目かわからないその言葉を猩影にかける。首無自身、憤りを感じずにはいられない。猩影の気持ちが痛いほどわかる。
リユキは、玉章が奴良組のシマから手を引くという条件のもと、玉章に付いていった。もっとも敵はそんな条件などなかったかのごとく今このシマを攻めてきているのだが。
そして、リユキはひとつの予防線を張っていたのだ。玉章が自分を欲していることを知った彼女は、猩影を突き放した。
猩影がリユキを簡単に放すとは思えない、 だから自分から突き放した。それは己惚れではなく、リユキと猩影の互いへの信頼関係があってこそできたことであり、リユキが猩影をよく理解しているからこ そできたことだった。
リユキの横に猩影が不在の隙に、リユキは奴良組から姿をくらました。
そして意図することに気づいたときにはすでにリユキは敵の手中だ。
やはり、わからない。
リユキ様の行動は、彼女を慕う者たちの心を傷つける。
どうして気が付かれないのですか。あなたは仲間を傷つけている。大切な人を傷つけている。
「ボクは総大将の孫なんだから、若頭のボクが、百鬼夜行をまとめるんだ」
首無は、倒れたリクオの介抱をしながらも猩影とのやりとりを思い出していた。リクオが無理をして倒れたことは、側で仕えていればよくわかった。リクオもリユキも自己犠牲が過ぎる。
鴆にリクオの部屋を追い出されてもなお、自分たち側近は部屋の外で二人のやりとりを聞いていた。
「ボクは・・・この姿のままでもみんなが付いてきてくれるようにならなきゃいけないんだよ!!」
リクオ様、リユキ様、あなたたちご姉弟は、もっと周りを見るべきだ。
「・・・確かめなきゃ」
百鬼が出陣した奴良組本家で発せられたその言葉は、誰の耳に留まることもない。