流水落花


□その十二
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「止めないでくれ!」

猩影の刃はぬらりひょんの刀に受け止められた。

「親父の仇だ!それにこいつはリユキ様の心を壊したんだ!」

猩影は、はじかれた長剣は持て余したままに、ぬらりひょんに突っかかる。

「おお玉章・・・なさけない姿になりおって・・・」

満身創痍の玉章と刀を向ける猩影の間に割り込んだのは、背広の老人だった。
周囲の妖怪たちは不思議そうに彼を見る。

「なんだ・・・?このジイサンは・・・」

「たのむ・・・この・・・通りだ」

老人は猩影をはじめとするぬら組に向き直ると、その正体をあらわにした。
彼は、玉章の父、隠神刑部狸その人であった。

「隠神刑部狸さま・・・!?」

「こんなヤツでもワシらには・・・こいつしかおらんのです」

隠神刑部狸は息子の行いを謝罪する。その巨体が土下座するさまに両組の者たちは一瞬あっけに取られた。

「・・・何卒命だけは・・・」

「リクオ、お前が決めろ」

「一つだけ・・・条件がある・・・」

ぬらりひょんの言葉に、首無に支えられながらリクオが一歩前に出る。

「ちょっと待ってくれよ!リクオ様!!」

条件があるという言葉は手打ちを意図している。それに猩影は我慢できない。
リクオが皆まで言う前にそれを遮った。

「猩影・・・」

首無が眉を寄せる。

「許しちまうんですか!?こいつはリユキ様を誘拐したのに」

「猩影くん、わかってるだろう?リユキ姉は誘拐されたんじゃない、自分の意志で付いていったんだ」

「でも!親父は殺された。それはどうなるんですか!」

「それは・・・」

リクオだけでは熱くなった彼を止められないかもしれない。首無はそう思い、猩影に声を掛けるために口を開こうとした。その時だった。
この場にいるはずのない、彼女の声が辺りの喧騒をかき消したのは。

「猩くん、もうやめて」

「!リユキ様!?」

「どうしてここに!?」

妖怪の姿をしたリユキの登場に猩影のみならず、ぬら組の面々は驚かされた。

「猩くん、お願い」

そんな周囲の状況をリユキはまったく気にする風でもなく、猩影の前へと歩みよる。そして片膝をついた。猩影に頭を下げようとしている。

「リユキ様、やめてください。頭を上げてください」

彼女の行動にワンテンポ遅れて猩影はそう言った。
彼にもう戦意はなかった。そしてリユキは、顔をあげ、猩影をまっすぐにみる。



「猩影、話があります」


彼女が彼をそう呼ぶことはあまり多くない。
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