流水落花


□その十三
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「と、言いますと?」

「おばあちゃん、珱姫は人間だった。だから珱姫の力は妖怪では使えない」

「どういうこと?」

リクオが首をひねる。傍らの雪女も同様だ。

「なるほど。確かに、その通りですな。珱姫様は不思議な力を持つ人間だった。その力は陽の力。陰の力を持つ妖怪が陽の力を扱うのは難しい。そういうことですな、リユキ様」

治癒をしているときのリユキは終始人間の姿のままだった。

「そう。陰の力を体現しているときに、陽の力を使っていては二つの力が相殺してしまっていた」

「つまり、妖怪の姿で治癒の力は使えないってこと?」

「そういうこと。だから、治癒して私が倒れるなんてことはもうないわ。皮肉にもこのことを気づかせてくれたのは玉章だった」

玉章の言う、ぬらりひょんの性質よりも濃く受け継いだ力とは、このことだった。

今までこの力は妖怪としての力だと、リユキを含め誰もが疑わなかった。しかし、それは違った。人間であった祖母の力は人間の、陽の力。妖怪のそれとは対極にある。

「あの当時は、不思議な力を持つ人間がいくらかおりました。彼女らは姫と呼ばれ、生き胆信仰の妖怪に命を狙われておりました。・・・猩影」

「はい」

急に声を掛けられた猩影は、しかし動揺はしなかった。そこで呼ばれることが当然だと心得ていたようだ。

「今回の戦いでリユキ様の力を知り、狙う輩が現れるかもしれん。お前がお守りしろ」

「はい」

「それと、リユキ様、そしてここにいる者たちよ。この話はあまり大きくしないほうが良いやもしれません。・・・そうですな、総大将」

牛鬼の言葉に、牛鬼以外がそのときはじめてぬらりひょんの存在に気づいた。

「そうじゃな。リユキ、それは確かに、’’自分にできること’’かもしれんな」

そしてぬらりひょんはリユキの横にいる猩影を視界に入れる。

「狒々組次期頭首よ、覚悟は決まったか?」

「はい。組を継ぎます」

猩影は一点の曇りなく答えた。
隣のリユキにも異論はないようだ。まっすぐに祖父を見つめる。

心なしか、二人の表情はすっきりとしている。リクオの出した条件に反発したときの猩影ではない。思いつめた様子で、その彼を止めに入ったリユキではない。
二人の間でも何らかの決着がついたようだ。
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