流水落花


□その十五
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リユキと青田坊という組み合わせはあまり多くない。青田坊はリクオの側近であるし、リユキは常に猩影が側にいるために、彼らがふたりきりになるということは珍しい。

「ん?」

青田坊が何かに気が付いて足を止める。

「どうしたの、青」

隣を歩くリユキもそれに倣う。
前方には黒服の二人組みがいる。その二人の足元に何かある。

「魔魅流、また出たぞ」

振り返った人間は、リユキと青田坊を険しく睨んだ。
彼らの身体の向きが変わったことで、彼らの足元が見て取れた。
そこには黒こげになった妖怪が倒れている。

「ひどいっ!それ、あなたたちがやったの?!」

「そいつらに何をした・・・!?」

リユキは倒れている妖怪を見て悲痛な声をあげた。青田坊も同様に二人組みの男にたて突く。
しかし、その時、リユキと青田坊を囲むように式神が配置されたことに気が付いた。

フゥワーと漂うそれに一瞬目が奪われる。
次の瞬間、背の高い方の男が電気を帯びた式を手に突っ込んでくる。それを目にした青田坊は、リユキを漂う式の外へと突き飛ばす。

「お嬢!!」

「青っ!?」

式が爆発のような威力の破壊を起こす。
間一髪、リユキはそれに巻き込まれなかった。

青田坊は爆発の反動で近くの建物に突っ込んだ。ドゴォオオという大きな音を立てる。

「青!」

リユキは青田坊に駆け寄ろうとするが、その行く手をもう一人の男に阻まれる。

「免れたか。・・・ん?お前はどっちだ」

「あなたたち、何者なの」

「聞いているのはこちらだ。お前はどっちだ」

リユキは背の低い、眉間にひどくしわを寄せた男と対峙する。

「妖怪は黒・・・学べよ、魔魅流・・・滅すべきもの・・・」

すると、リユキの背後に先ほどの男が何やらぶつぶつと呟きながらやってきた。そしてまたも、式を手にする。

「な・・・なにすんだ・・いきなり・・てめぇら・・・」

青田坊が瓦礫の中から起き上がる。大した怪我はないようだ。リユキはそれを見届けると、再び、強面の男と対峙する。

「頑丈な奴・・・」

「・・・妖怪は絶対悪・・・滅すべきもの」

「待て、魔魅流」

「やめない。妖怪は滅すべきもの」

「やめろとは言ってないだろ。何者だろうと妖怪には変わりない。滅した方が早い。だが、学べよ、魔魅流・・・」

強面の男がコートの内から竹筒を取り出す。
リユキは妖怪へと姿を変え身構えるが、それより前へ青田坊が出る。

「ふん、やはり妖怪だったか・・・”餓狼”喰え」

男がそう発すると狼のような獣が青田坊とリユキを目掛けて襲い掛かる。

「なんじゃてめえらあああってぇえええ きいてんだろうがぁ!!」

青田坊が力で押し切ろうとする。しかしその獣は実体をなくし、水に変わった。
そのワナに先に気が付いたのはリユキだった。

「青!逃げて!!」

「魔魅流、どうやら雷だけでは効かぬようだから、水の性質を与えることにしよう」

長身の男が一歩前に出る。
青田坊は水を被って拍子抜けしている。

「学べよ、実戦から、我々は――妖怪退治のプロ」

雷の式神を持つ男が青田坊へと再び攻撃してくる。

「青!」

リユキはとっさに前に出た。その時リユキも餓狼を喰らっていた。






大きな破壊音とともに見えた閃光。そこは猩影がこれから向かおうとしている方向だった。

そして今、微かに彼女の気配を感じた。
妖怪に変化している。そして今の破壊音。
そこから推測されるのは、考えたくもない事態。

ビルの森を翔る。猩影はそこへと急行した。

「(無事でいてくれよ、リユキ)」

一番街へ到着すると、猩影は見知った人物を見つけた。

「黒の兄貴!」

「猩影か、どうしたこんなところに」

「今、すげえ音が聞こえて、それで・・・」

「ああ、拙僧も少し気がかりでな。でもどうして猩影が」

「リユキとはぐれて、気配がしたんです」

その言葉に黒田坊は猩影の言わんとしていることを理解する。

「急ぐぞ」

二人が現場に駆けつけると、そこは当たり一体が破壊され瓦礫と化していた。そこは一番街を裏から抜ける場所。そのため一般人は立ち寄らない。黒田坊などが本家からこちらへ来るときに通る道だった。
そしてそこに、猩影の一番避けたい事態が待っていた。

「リユキ!!」

「リユキ様!青!」

リユキと青田坊が瓦礫の上に倒れている。
嫌な予感が的中してしまった。
猩影はリユキを抱き上げる。口元に顔を近づけると弱弱しいが呼吸はしているようだ。

「黒の兄貴、リユキを本家へつれて帰ります。青の兄貴は頼んます」

猩影はそう、静かに言い終えると本来の姿へ変化し、闇の中へと消えていく。

「猩影・・・」

リユキは相当の怪我を負っていた。
助かるだろうか。黒田坊は猩影のあんな怒りに満ちた姿を見たことがあっただろうかと考える。
猩影は非常にいらだっていた、否、猩影も、である。
黒田坊もリユキの傷ついた姿にふつふつと怒りがこみ上げてくるのを必死に絶えていた。

「油断でもしたのか」

そして目の前で倒れているもう一人に声を掛ける。
共に特攻隊長を名乗る者がこれほどあっさりとやられるものだろか。守るべきものも守れずに。

「奴良組の特攻隊長の名がなくぞ」

「人間・・・」

「は?人間?」
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