流水落花・・・番外編

□お転婆娘の散策道中
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一方のリユキは、難なく屋敷を抜け出してご満悦。なかなか一人になる機会はないので、誰にも邪魔されずに自分の好きなように行動できることが嬉しかった。それがなにより楽しかった。

しかし一人になるということはそれなりの危険も伴うものである。人間、妖怪問わず、リユキの容姿を見初めて近づいてくる。



「お嬢ちゃん、一人かい?お母さんはどうした?」
一人でいる子どもを迷子だと心配して近づいてくる人間。



「おじさんがお母さんのとこまで連れて行ってあげるよ」
心配は面の皮で、誘拐目的で近づいてくる人間。



「人間のガキか、ひさびさの獲物だ」
リユキを幼児だと見初めるや否や食らおうとする妖怪。



「奴良組の娘がこんなところで何してんだ?あ、そーだ。キミを殺して見せしめにすれば、調子に乗った奴良組も少しは大人しくなるかなぁ」
そして、奴良組の娘だと知り、攫おうとしたり殺そうとしたりする妖怪である。

「捕まえてみなさいよ」

それに怖気づいていては、リユキは一人で外の世界に出ようとは思わない。そんな「危険」からも回避できるからこその逃亡劇であった。

「ガキがいきがってんじゃねぇえええ!」

二代目鯉伴が治めるこの浮世絵町で、子どもを攫って奴良組を貶めようとする輩にまともなやつはいない。幼いながらにリユキはそう確信していた。

突っ込んでくる妖怪にリユキは怯むことなく、畏れを発動させる。認識をずらして、相手がリユキに触ることさえも許さない。

「あ、あれ?どうなってやがる」

リユキが奴良組二代目の娘であることは知っているくせに、その大将の畏れを知らないなど話にならない。大方、本当に子どもを誘拐して脅す、くらいの戦法ともいえぬ卑怯な手を使おうとしていたのだろう。

「あはは!私の勝ちー!じゃあねー」

リユキはもう一度妖怪の前に姿を現すと、走り去る。そうしてリユキは「危険」な遊びを繰り返していた。


“ぬらりひょんの性質を二代目並みに引き継いでいる”とは誰が言った言葉だったか。
力こそ強くはないが、その性質を理解し、使いこなすことをリユキは一人「危険」に身を晒すことで習得していた。畏れては負けてしまうこと、凛として気高くあればこそ祖父から受け継いだ力は本領を発揮することを。





「ただいまー、じゃなかった、リクオー!もうかくれんぼはおしまいにしよ」

「あーおねえちゃん、どこにいたの?僕いっぱい探したのに」

リユキが声を掛ければ、リクオは素直にパタパタと駆け寄ってくる。

「リクオ、ホントにちゃんと探したの?」

リクオを試すように問う。

「探したよー!」

「じゃあご褒美にこれあげる。かくれてる間に見つけたの」

リユキは道中見つけた四葉のクローバーをリクオに差し出す。

「わぁ!すごいすごい!!おねえちゃんありがとう」

リクオはこれで少しばかりのかくれんぼの悔しさを忘れる。そしてリユキをさらに慕う。


そんな様子を陰ながら見守っていた側近たちは、疲れ果てていた。
リユキを町で見つけることはできず、本家に戻ったと連絡を受けて帰って来ると、リクオとリユキはいつものパターンでかくれんぼを終えている。
リクオの姉に対する信頼度は上がり、リユキが屋敷外へ出ていたなんてことは絶対にリクオにはばれていない。毎度、苦労するのは側近だけである。



やれやれ、鯉伴はその様子を桜の木の上から見物していた。
実は首無が飛び出したあと、ちゃんとリユキを追って陰ながら見守っていたのだ。万が一に備えて着いていくのはいつものことでされど娘の前に飛び出したことは今まで一度もなかった。毎度、娘の成長を見届けるだけだった。ただ、リユキに手を出そうとした妖怪たちの始末をつけることだけは忘れない。


娘は将来、どうするだろう。
自分の後を継いで組を引っ張る存在になるのか。しかし、娘には闘う力はないとみた。それを彼女自身が理解し、求めるようになるまでは、こちらから与えてやるのは止めにしよう。
もし、力を欲するというのならそのときは百鬼を率いるだけの力を持てるよう鍛えてやろう。鯉伴はそう、決めていた。


お転婆娘は皮肉なことにその父の死を目の当たりにして、丸くなってしまう。それはまた別の話。

そして弟リクオが若頭を襲名し、奴良組に若い風が吹き始めた今、リユキの心にも変化が訪れていた。「力を欲する」その時は、もうすぐのことかもしれない。


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ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字報告、変換し忘れなど教えていただけるとありがたいです!

あとがき。
うちの夢主はやたら明鏡止水や鏡花水月を使うので、リクオが苦労して?見様見真似で習得したその技をどこで身につけたんだよってことで書いてみました。
リユキは鯉伴の死によって今のような大人しい女の子になると思います。そしてたまにいたずらを企んだり、無茶をして(牛鬼編や四国編のような)危険に飛び込んでいくのは、もともとこういう性格だからっていうのをいつか書きたいと思っていました。

蛍。
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