流水落花


□その十七
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・・・思い出した。

私は、あの時、見せられていた。
父の最期から目を逸らすことを許されず、その絶望を心に刻まれた。身体を固定され、顔を押さえられ、目を閉じることを許されず、涙を流すことも叫び声を挙げることも禁じられた。

そうだ・・・私は、父の、二代目の死の真相を見ていた。


「おとぅ、さん・・・ごめ、ごめんなさいっ」

「リユキ、辛いことを思い出させましたね」


己の心を守るため、リユキは父の死とそれを見せられた恐怖のうち、後者を忘れることで精神を保った。しかしその代償として、心を閉じ込めてしまった。それはその少し後に猩影によって救われることとなる。

父の死を断片的に記憶したまま、状況を忘れたリユキは、その死の真相は忘れていた。


急に溢れてきた記憶に、唇を噛み締めて耐える。涙が溢れそうだ。しかし今更泣いたところで、忘れたことの罪滅ぼしにもならない。どうして忘れていたのか、リユキは自分を責める。
悔しい。
そんな肝心なことを忘れなければならなかった自分の弱さが、何より悔しい。


「違うのです、リユキ。貴女を責めたくてこの話をしたのではありません」

珱姫はリユキを抱きしめ、孫娘の手を握り背を軽く叩いて、宥める。

「貴女に思い出して欲しかったことは、治癒の力を受け継いだ貴女が狙われているということです。400年前、私は妖様、貴女の祖父に助けていただきました」


当時の京の都には、私を含め、不思議な力を持った姫が幾人かおりました。あるとき、その姫たちが大阪城に集められたのです。その天守閣にいたのは、羽衣狐でした。羽衣狐は生き肝信仰の妖です。不思議な力を持った姫たちの生き肝をその力に変えていたのです。リユキ、どういうことかわかりますね。現代再び、羽衣狐が蘇り、そして400年前果たせなかった宿願を果たそうと動き出しました。


「リユキ、気をつけ・・・」

そこまで言うと珱姫の姿が急におぼろげになった。リユキは、咄嗟に珱姫に手を伸ばすが、それは空を切ることになる。

「おばあちゃん・・・?」

「怪我はもう癒えたようですね。リユキ、身体を大切にしなさいね。妖様によろしく伝えてください・・・」

そうして微笑んだ珱姫は白の世界に溶けるように消えていった。
残されたリユキもまた、この白の世界には長く居れないようだ。何かに引き上げられるような感覚が襲う。
目が覚める、唐突にそう思い、そして身を委ねた。
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