流水落花


□その十八
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奴良組に久方ぶりのにぎやかさが戻った。リユキが目を覚ましたことを祝した宴が開かれている。リユキの回復を知り、妖怪たちは諸手を挙げて喜んだ。

リユキはその宴の最中、ふと気付く。
リクオがいない。こっそりと広間を抜け出して、リクオの部屋の前に来てみるが、人の気配はしない。リクオはどこに行ったのだろう。

リクオには話さなければならない、とリユキは思っていた。父の最期を血を分け合った弟のリクオには、伝えなければと。
リクオは父の死をどこまで理解しているのだろうか。

肝心のリクオがいない。誰かに所在を尋ねようと歩きだそうとしたところで、急にふらついた。
とっさに柱に手をかけて身体を支える。傷が癒えたとはいえ、まだ万全ではないことを思い知る。おとなしくその場に座り、落ち着くのを待つ。

『孫娘よ・・・お主には特等席で事の顛末を見てもらうとしよう。フェッフェッフェ〜』

『絶望を頭に刻み込んでおけ』

『父の殺されるところをよぉ〜く、覚えておくのじゃぞぉ』

『そして、時が来たたとき・・・・・・その生き胆が羽衣狐様のお力となるのじゃ』

『不思議な力を持った姫よ』

『400年前、食らい損ねたその力を・・・今度こそ』

一人になると、嫌でも考えてしまう。見せ付けられた絶望と恐怖を思い出してしまう。

「いやっ・・・」

もう見せないで。見たくない、聞きたくない。目をつぶり、耳を塞いでも、光景と声が蘇る。より鮮明になる。

知らぬ間に身体は震え、周りの音は聞こえなくなった。宴会のにぎやかさがもう遥か遠くに遠のいたように感じた。

「お、と、さん・・・っ」

リユキの目に映るのは舞い散る山吹の花と枯れてゆく父親の姿だった。



「リユキっ!リユキ!!おい、しっかりしろ!」









リユキの姿が見えない。
リユキが目を覚ましたことを祝う宴のはずなのに、主役不在のままでも本家妖怪たちは気にしないようだ。猩影も最初はトイレにでも行ったのかくらいに考えていたが、それでも彼女がいなくなったことに気がついてから結構な時間が経つ。
猩影はリユキを探すため、広間を出た。
そして猩影は蹲っているリユキを発見する。

「リユキ!」

近づくと、リユキは耳を押さえ、目をぎゅっとつぶっている。身体が見た目でもわかるほどに震えていた。

「リユキっ!リユキ!!」

猩影はリユキの肩に手をかけ、必死に呼びかける。身体をゆすってもリユキは顔を上げない。

「リユキ!!しっかりしろ、おい!!」

ふいにリユキから力が抜ける。倒れかかってきた彼女を猩影は支える。

「しょうくん・・・」

「リユキ?!」

猩影はリユキの小さな声を聞き逃さなかった。

「猩くん、猩くん!猩くん・・・しょう、くん」
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