流水落花


□その二十二
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花開院本家では京都府知事や市長などが集まり、京の現状と対策の話し合いが行われている。
400年前、13代目秀元が施したらせんの封印が羽衣狐により破られている。この一大事を何とかしなければならない。ゆらにより呼び出された13代目本人がらせんの封印は破られると明言した。

「あ、まず最初に言うとくと・・・最後の封印、二条城は落ちます」

きっぱりと言い切った秀元に集まった者たちは宛がなくなり怒ることしかできない。

「だが奴らはそこで守勢にまわる。羽衣狐は二条城で出産しようとしてるんや!」

知られざる事実に一同は驚く。
羽衣狐は400年前果たせなかった宿願を果たそうとしている。その宿願とは子を産むこと。それを阻止して倒してしまえば京妖怪は再び結束を失う。

「羽衣狐は最大の敵やけど、京妖怪にとって最大の弱点でもあるんや」

「そこをうまくつけばあるいは・・・」

羽衣狐を倒す希望が見えた者が歓声を上げる。

「倒すのに必要なものは2つ・・・ひとつは”破軍”つまり、ゆらちゃんや!!」

最年少陰陽師が希望の星であることに、このとき多くの者が気がついた。

「そしてもうひとつは妖怪を斬る妖刀!」

「その刀、祢々切丸というのだろう」

今まで黙って聞いていた竜二が柱の影から姿を現す。

「今・・・その刀はぬらりひょんの孫が持っている」

秀元は関心して竜二を見た。

「”彼”の孫やて・・・!?」

「奴良組には俺が行こう」

そのとき、広間の戸が勢いよく開かれた。

「その必要はありません!!リクオ様は必ずいらっしゃいます!!」

人間の姿をした雪女が立っていた。急に入ってきた雪女に部屋の中はざわつく。特に一番慌てたのはゆらだった。

「おや・・・?」

何かを言いかけた秀元を遮るようにゆらが駆け出す。

「こ・・・これは違う!違うんや竜二兄ちゃん!」

「ゆらちゃん、その娘だれ?」

そわそわと近寄ってくる秀元にはもう雪女の正体がわかっているのだろう。

「私、奴良組の・・・」

「奴良組?」

ゆらは雪女と秀元の口を塞ぐのに右往左往した後、二人を連れ出すことで決着をつけた。

「ここまでくれば大丈夫やろ・・・」

ダンボールが所狭しと積み上がった部屋に雪女は倉庫かと問う。

「私の部屋や!」

「ゆらちゃん、その娘。妖怪やろ」

ここまできたら隠しきれない。

「あの、さっきの話ですけど・・・リクオ様がくればいいんですよね!?大丈夫!きっと修業が終わったらリクオ様は駆けつけます!」

リクオではなく、花開院家が欲しているのは祢々切丸のことなのだが。

「まあ・・・あながち間違ってへんなぁ。祢々切丸はもちろん必要だし、400年前、羽衣狐を実際倒したんはぬらりひょんやしなぁ・・・」

ゆらはハッとする。大妖怪、羽衣狐を倒したのは妖怪だった。ゆらはリクオの人柄やその雰囲気を思い出す。

「ところでつららちゃん、君の大将、修業中言うてたけど、強いんか?羽衣狐は転生するたびに強くなるで・・・」

秀元は挑発的な表情をする。

「リクオ様が以前、言われたのです・・・『オレは人にあだなす妖怪は許さねぇ』」

「なるほどねぇ・・・あとはまあ、羽衣狐の方を強くせんことやなぁ」

「どういうことや?」

意味深な発言にゆらが疑問を投げる。

「羽衣狐は生き肝信仰の妖や。より、強い能力のある生き肝を欲している。それを奴に与えんことやなぁ」

「より強い能力、ですか?」

「まあ今時もうおらんのかなぁ、異能の力を持った姫、とか」

「・・・リユキ様!」

「それって、奴良くんのお姉さん?」

「ちなみに、どんな能力なんや?」

「リユキ様には、祖母珱姫様より受け継がれた治癒の力があります」

「それはまた・・・」

400年前、羽衣狐は珱姫の生き肝を食らい損ねた。ぬらりひょんは珱姫を助けるために羽衣狐を倒したと言っても過言ではないだろう。

「だったら用心せなあかんなぁ、その姫、必ず狙われるよ」



一方、百鬼夜行は白蔵図の言葉を信じて伏目稲荷を目指していた。
道中、生き肝を狙った京妖怪が人間を襲っている。リクオたちは京妖怪を斬って進む。
猩影は終始リユキから離れようとはしなかった。

伏目稲荷大社は異様な雰囲気を醸し出していた。
京に巣食う怨念の積柱が空に伸びて厚い雲を成している。約一万本はあると言われる千本鳥居の森。リクオ率いる百鬼夜行は鳥居の森を探ることにした。

境内にはいまだ観光客の姿が見受けられた。

「まだ結構参拝客とかいんのな」

「見えないやつらには柱もみえてないのだろう」

「暗いが時間は昼間だ」

「こんな時間に女でいるなんて初めてだ」とは淡島の言葉である。納豆小僧と河童の素朴な疑問にも男でいることが主体であると言う。

「リクオと一緒さ〜なぁ?・・・あれリクオって人と妖怪、どっちが主なんだ?」

毛倡妓は、淡島のリクオに対するスキンシップを間のあたりにして雪女がこの場にいないことに安堵した。

「リユキ」

猩影はふらふらと境内を歩き回るリユキを咎める。

「猩くん、これ見て」

リユキに悪びれた様子はない。

「この山の地図か」

見ると伏目稲荷の地図が大きく表示されている。

「奥に進むにはルートがいくつもありますね、なん手かに別れましょう」

首無や他の妖怪も地図の元に集まってきて、進むべきルートを考える。

リユキはその地図の中に気になるものを見つける。現在地と示されるすぐ隣にそれはあった。みんなが地図をみつめる間にリユキはそこを抜け出した。


「おもかる石?」

そのリユキに気がついたのは淡島だった。

「何だこりゃ・・・重軽石?」

説明書きには、灯篭の上に置かれた石を持ち上げて思ったよりも軽ければ願いが叶うと書かれている。

「リクオのねえちゃん、持ってみろよ」

リユキは戸惑いながら石を持ち上げた。手にずっしりとした重みが伝わる。
なんとか元の場所に石を戻すと、それを見ていた淡島が石を持ち上げた。淡島の手にも予想以上の重みが伝わった。

「重っなんだこれ・・・」

「リユキー!」

「リユキ様ー、淡島ー次に行きますよー」



「リユキ、お前どこへ行ってたんだ」

猩影の元に戻ると案の定少し機嫌の悪い彼。

「ごめんごめん、初めてきた場所だからつい・・・」

「もう離れんなよ、迷うぞ」

リユキの放浪に若干呆れ気味の猩影は、深い溜息をつくとそう言った。そしてリユキと手を繋いだ。
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