流水落花


□その二十六
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9 月 23 日、大安吉日。
秋晴れのこの日、リクオが奴良組三代目を襲名した。大胆な幹部の入れ替えと貸元の序列の見直し。猩影が率いる関東大猿会も例に漏れず参上し、その一覧に名を連ねた。

「三代目を継ぐにあたって言っておく。まず俺は人に仇なす奴は許さん」
リクオは宣言した。

「仁義に外れるような奴はなお許さん。たとえ他の妖怪に敗れそうになってもだ。それは畏れを失わぬ、そういう妖であれということだ…俺はこの組をそういう妖怪の集団にする」

居並ぶ貸元たちは皆リクオの宣言を静かに聞く。否、この畏れを前に口を出せるはずがなかった。

「それが俺の…百鬼夜行だ!…いいな」


リユキは総大将の姉という立場になった。
貸元をはじめ、奴良組の傘下にある組や派閥では、組織の立て直しにいそしんでいた。


猩影もまた組の強化に忙しく、本家を訪れることが少なくなっていた。
放課後は狒々組に戻ってシマのあちこちを飛び回る毎日を送っている。




「猩くん、無理しないでね」
猩影は毎日リユキを迎えにきて、本家へ送り届けていた。そんな猩影が少しでもゆとりを持てるようにリユキは他の護衛を付けてもらうように申し出た。しかしそれは猩影によって却下されてしまう。


「少しでもリユキと一緒に居たいんだ」
「それは私も。でも猩くんが大変でしょ?」
「大丈夫だ。それよりリユキも最近は忙しいんだろ」

リユキもまた忙しい毎日だった。組の強化には怪我が付き物であり、それを癒やすのがリユキの主な役割だった。

「うん…」
本当は誰かが傷つくところなんて見たくない。けれど、これは奴良組にとって必要な、乗り越えるべき事態だ。そして自分が役に立つならとリユキは日々、務めを全うしている。

「リユキも無理すんなよ」
猩影がリユキの頭にポンと手を置いた。
「うん、ありがとう」
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