流水落花


□その二十七
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「懐かしいね」

浮世絵中学校の正門前で、リユキと猩影はリクオの帰りを待っていた。
下校する中学生が、リユキと猩影のわきを素通りしていく。とても目立っていた。長身の猩影とリユキが並んで立っていれば注目は免れない。視線に耐えられなくなったのは言うまでもなく、リユキが畏を発動し、二人の姿は認識されなくなった。

「まだ1年経ってねぇけどな」
リユキと二人、この坂道を通ったことがついこの間のような気がする。中学の三年間はとても短く、あっという間に過ぎた。リクオたちがその渦中にいることが少し羨ましくもあった。

話しているうちに大半の生徒が門を通りすぎて行ったのに、まだリクオが出てこない。
「リクオ遅いなー」
「もしかしてすれ違いになってねぇか」

噂をすればなんとやら、そんな話をしていると、やっとリクオと護衛の氷麗、それから女の先生の姿が見えてきた。彼らはリユキの畏れを見破れず、そのまま通り過ぎようとしていた。

「リクオ!氷麗!」
「姉ちゃん!?それに猩影くんも、どうしたの?」
突然声を掛けられ、リクオと氷麗は驚いたようだった。慌てて一緒にいた女の先生に弁解している。それにリユキはご満悦。猩影はふっと息を吐いた。

リユキが元気になってよかった。このところリユキは以前のような活発さが見えると本家妖怪たちがこぼしていた。猩影と出会う前のリユキ。屋敷を抜け出したり、リクオをいたずらに巻き込んだりとそれはもう明るく活発な女の子だったそうだ。当時の行いを彷彿とさせるわけではないが、何もかもを憂いて動き出せなかった出会ったころのリユキとは全く違う。

猩影が考えに耽っている横でリユキが簡単にリクオたちに出向いた理由を説明していた。
「なるほど…それで僕に相談を…何で?」
「そりゃ…若はその年で三代目じゃないですかい。俺だって年ぁ若とたいして変わんねぇんだ!新米組長としてわかんねぇこと聞きたいじゃないっすか!」
リユキに促されたことがきっかけだが、猩影の中にリクオを頼りたい気持ちがなかったわけではない。

「わかった!一緒に行こう!」
リクオが胸を張って猩影を見上げた。
「猩影くんの頼みだ。頼ってくれて嬉しいよ!」
それを見てリユキは、ほら言ったでしょと猩影に笑いかける。

「猩影、リクオ様を頼みますよ」
氷麗は忙しいようで早速リクオのことを猩影に申し付けている。
「リユキ姉はどうする?」
「私は氷麗と帰るよ。本家で待ってるから」
「わかった。氷麗の姐さん、リユキをお願いします」
「任せて!」
「猩くん、リクオ、いってらっしゃい。武運を」
リユキの治癒の光が二人を優しく照らす。
「行ってきます」


リユキは氷麗と一緒に帰路に着いた。
「リユキ様、猩影と一緒に行かなくてよかったのですか?」
「うん。足手まといになってしまうと困るし」
「そんな、リユキ様が足手まといなんて…」

京都でも封印の地脈の妖怪を倒した。それにリユキの治癒の力は奴良組になくてはならない力だ。

「ありがとう、氷麗。でもね、今度は私が待つって決めたんだ」
「リユキ様?」
「夢でお父さんが言っていたの。信じて待つことは百鬼の強さにもなるって」
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