流水落花


□その二十七
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その夜、リクオと猩影は奴良組本家に帰着し、リユキや氷麗、本家妖怪たちに迎え入れられた。

「おかえりなさい!」
「三代目、出入りだったんですか!」
「お怪我はありませんか!」
妖怪たちが口々にリクオや猩影を労う。

「狒々組のシマが拡大した。猩影がこれから大きな畏れに変えてくれるだろう」
そう言うとリクオは部屋へと向かった。

リユキと猩影も屋敷の中に移動した。リユキは猩影に怪我がないことを確かめ、改めておかえりを言う。
「ただいま、リユキ」
「シマの拡大おめでとう!」
「ああ、ありがとう」
言葉とは裏腹に、少し辛そうな様子が見て取れた。

「猩くん、大丈夫?」
眉を寄せ、心配そうなリユキを安心させるように微笑む。
「少し疲れただけだ。リクオ様にいきなり纏われた」
それはリクオの畏れのひとつであり、先の戦いで体得した奥義だ。

「それに罠だとわかっててハマりに行く若についていくのは苦労したぜ」
「リクオのやりそうなことよね」
微笑みながらリユキは治癒の光で猩影を癒やす。

「リユキもだ。お前もそんなときがあるよ」
「そうかな?」
リユキは本気で自覚がないようだが、四国のときは玉章の罠だと知りながら敵陣に入っていったし、京都にも危険と知りながら着いてきた。
「ホントよく似た姉弟だ」

それから猩影は、出入りのあらましをリユキに説明した。最初に相談を持ちかけたリユキには事の始終を知らせたほうがいいと思ったからだ。



猩影はリクオと二人、川越へと向かった。怪異は、逢魔が刻に通りゃんせの歌を聴くと現れた。鳥居を潜ると、木の陰で泣いている子どもがいた。何の躊躇いもなく話し掛けるリクオを猩影は止められなかった。
消えたリクオを探しているとそこに現れたのは、中学校の前で会った女教師だった。
彼女は昔、同級生を通りゃんせによって失っていた。
空間に亀裂を見つけた猩影は、狒々の面を付けると大太刀を振るう。
なんとかリクオと合流し、リクオに纏われ通りゃんせの怪を倒すことができた。
通りゃんせの怪異は若い女の顔を切り裂き、恐怖で畏れを得ることで成り立っていた。


「そんな…」
リユキはぐっと手を握りしめていた。
猩影は失敗したと思った。リユキがそういう反応を示すことは考えればわかることだった。

「猩くん…変えてね」
「ん?」
「大きな畏れに。二度と悲しいことが起こらないように」
「ああ」
猩影はリユキを抱き寄せ、その頭を優しく撫ぜる。

今日の出入りはリクオの捨て身とも言える行動に驚かされたが、三代目の器の大きさを思い知った。弱いものや下僕のためならどんな危険も厭わない。
…俺はこの人についていく。そして俺の狒々組を…三代目の奴良組をでっかくしてみせる。


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