流水 番外編2

□ふたりの力
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10歳



公園で遊んでいたリユキと猩影。猩影が少し席を外したときにそれは起きた。



「リユキ様に近寄るな」

2人組の男たちはリユキを両脇から囲むように見下ろしていた。男達の腕を、生まれ持った身体能力で交わしていたリユキだったが、猩影が駆けつけてそちらに意識が持っていかれた。その隙を男は見逃さなかった。一人がリユキの細腕を掴む。

「猩くん・・・」
「なんだガキに用はねぇんだよ」

男達はリユキを誘拐しようとしていた。

「手を離せ!」

ひとりがリユキから離れ、猩影に向かってくる。

「猩くん!逃げて」

リユキの制止も聞かずに、猩影は向かってくる男に立ち向かう。渾身の一撃は、子供だと油断した男の腹に直撃する。

「ぐっ・・・このクソガキ!大人しくしてりゃあ怪我しなかったのになあ」

男は脚を高く上げて、猩影の肩を蹴飛ばした。バランスを崩した猩影はそのまま後ろに倒れる。

「猩くん!」

リユキの叫ぶ声に涙声が混じる。

「おー泣き顔もカワイイねー!」

リユキを捕まえている男が鼻の下を伸ばして言う。リユキは力いっぱいその男を振り払おうとするが、さらに男は力を強くするだけだった。

「ほら、君はこっちだよ」

そうして力で敵わないリユキを引きずるように連れて行こうとする。

「いやあ!!放して」

「リユキ様を放せぇ!!」

その時だった。子供とは思えないほど、怒気を含んだ低い声て猩影が叫ぶ。それと同時に、猩影の姿がヒトではなくなった。


「な、なんだ!?」

狒々の姿をした猩影が、リユキを引きずる男へと体当たりをする。その拍子に男はリユキから手を放す。先程とは違う人智を超えた力は、大人の男性を突き飛ばすには十分だった。

猩影の姿やその力、そして今にも飛びつこうという気迫に圧され、大の大人二人は逃げていった。






「リユキ様!怪我は?」

人間の姿に戻った猩影は、リユキに駆け寄った。

「猩く、ん。血が・・・」

先程蹴られたときに地面に着いた手を怪我している。

「こんなのどうってことない。それよりリユキ様、あいつらに何もされてないですか?!」

「私は何もされてないよ。猩くんが来てくれたから。ごめんね、猩くん」
答えながら、今度はリユキの姿が変化する。

「リユキ、様・・・?」

「私の妖怪の姿だよ」

「・・・」

何も言わない猩影にリユキは微笑みかける。猩影はただ、見惚れていた。子供ながらに、女性を褒める「きれい」という言葉はこういう人に使うのだと思った。


見惚れていた猩影は次には驚いて、また言葉が出てこなかった。リユキが猩影の怪我をした手を取って、自身の手をかざすと、そこから淡い光があふれ、あっという間に傷は塞がった。

「驚かせ、ちゃっ、たかな」

傷を治したリユキは、ガクッと膝を崩して倒れ込む。

「リユキ様?!」

その時にはリユキは人間の姿のに戻っていた。
何度呼びかけても反応しないリユキは意識を失っていた。猩影はリユキを抱えると本家へ急ぐ。




本家につくと、出迎えた妖怪たちがリユキを猩影から受け取って部屋へ寝かせに行ってくれた。猩影は困惑した表情で、そのあとをついていく。

「猩影、何があったか話せるか?」

本家に来ていた狒々が猩影に訊ねる。

「公園で、遊んでいたら知らないおじさんたちが来てリユキ様を連れて行こうとして」

優しい笑みを浮かべ、猩影の話を聞いていた大人たちの顔色が変わる。

「それでリユキ様は気を?」
頭を振る。

「俺が蹴られて、怪我を治してくれて、そしたら・・・」

猩影の瞳が揺れる。リユキの手前、弱気になるわけにはいかなかった。大の大人二人を相手に怖くないはずがなかった。

気を失ったリユキを担ぐときに、男が掴んでいたリユキの腕が赤く鬱血していたのに気がついた。リユキは気づいていたかは分からないが、痛みはあっただろう。猩影は今になって悔しさが込み上げてきた。

「リユキを守ってくれてありがとうな。リユキは疲れて眠っているだけじゃ」

ぬらりひょんが優しく猩影の頭を撫でる。
リユキが気を失った理由がわかり、安心するのも束の間、その原因を作った奴がいる。そうとわかれば次にすることは決まっている。

「おい、てめぇら行くぞ!」
「出入りだ!」
「お嬢を、リユキ様を攫おうとした輩をとっ捕まえろ!!」

今まで猩影に接していた優しい雰囲気は皆無、大人たちは恐ろしいほどの畏を放ち、出入りに向かう。

猩影は目が点である。出かかった涙も引っ込んだ。
あの誘拐未遂犯たちがどうなったのかはわからない。奴良組の大人たちによって片がつけられた。





翌日目を覚ましたリユキは、猩影にお礼を言った。

「昨日はありがとう。驚かしてごめんね」

「い、いえ。怪我治してくれてありがとうございます」

リユキが治癒の力を使うと体力を多分に消耗してしまうことをあとから知った猩影は、リユキの前で怪我をしないようにしようと思った。


優しいお姫さまは、自分のことより他人を優先してしまうんだと気づいたから。
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