流水落花


□その十
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――四国八十八鬼夜行増援に乗じて、敵陣に潜入せよ

「牛鬼様のおっしゃった通りだ」

牛頭丸と馬頭丸は、リクオと牛鬼の命で四国が本部として構えているビルに潜入していた。

巨大なビルの吹き抜けフロアには四国からやってきた妖怪たちで溢れていた。
玉章の登場に盛り上がる四国勢。
振り上げられた拳が牛頭丸にヒットしてしまった。馬頭丸が駆け寄り、牛頭丸を助けおこそうとする。そのとき、その周辺にいた妖怪たちがふたりの存在に気づいた。

「おめーら、見かけね〜つらだな・・・?」

「お前らみたいな奴・・・おったかなぁ〜〜〜?」

四国の妖怪たちはじろじろとふたりを見つめる。

「じゃじゃあ〜〜〜〜ん!!見事なり我らの変装!!ホラ!!僕ら狸妖怪やけん!!慣れん都会じゃ、人目が怖くて変装しとったんじゃ〜〜」

馬頭丸が狸の皮を被って、狸妖怪が化けていたかのように見せる。
これは、牛鬼組の得意とする「騙し」と「操る」能力を生かした牛鬼の作戦だった。この策により、なんとか四国妖怪の注意を逸らすことができた。

牛頭丸と馬頭丸が任務を通達されたときのことを思い出していると、壇上にいた玉章が声をあげた。

「諸君、よくぞ集まってくれた」

玉章がフロアに向かって演説し始めると、そこにいた妖怪たちは一斉に歓声を上げる。そして玉章に注目した。

「ついに、我々が盟主の座を奪うときがきたのだ!!」

フロアからはそれに賛同する声が多く上がる。

「その通りだ!!我々がついに日の目を見るチャンス。だが、我々四国の仲間は破れさった者もいる」

玉章が告げた名の知れた妖怪たちの名前にどよめきが起こる。

「盟友・犬神は面憎き敵将に真っ二つにされた・・・・・!」

玉章は、表情を歪めて犬神の死を悲観しているようだった。それにフロアのどよめきは拍車が掛かる。ざわざわと動揺する妖怪たちを静まらせるために玉章が声をあげる。

「うろたえるな!!犬神は敗れたが、僕らには新たな仲間が加わった」

すると誰かを呼ぶように後ろに合図を出す玉章。
その合図で玉章の横に歩み寄ってきたのは・・・


「紹介しよう、僕の妻となる、リユキだ」

「(なっ!リユキっ!?)」

フロアの妖怪に混じっていた牛頭丸と馬頭丸は、思わぬ人物の登場に絶句する。

どうしてリユキがそこにいる。
そこ、というのは”玉章の横”である。拘束もされていなければ、脅されている様子もない。明らかに自分の意志でそこにいるリユキに二人は戸惑う。

リユキが四国勢に捕まったということは聞いていた。今回の任務には含まれていないが、牛頭丸と馬頭丸はリユキの無事を確認しようと思っていた。

「うおー!リユキってのかー!!」

「なんてお美しい!玉章の奥方にはぴったりだ」

動揺するふたりとは違って、他の妖怪たちはリユキを絶賛していた。

「それだけではない!僕にはもうひとつ、この”覇者の証”がある!!」

玉章が掲げた古剣にフロアのどよめきは最高潮になる。

玉章はその刀を掲げたまま、敗れた者を悼み、虐げられてきた四国が妖怪のトップに上り詰めるときだと力強く宣言した。



牛頭丸と馬頭丸は、リユキに注意を払いながらも、刀を見た途端に周りの妖怪たちが豹変したことに戸惑った。
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