流水落花


□その十一
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「どうした、リユキ」

急にリユキの顔から生気が薄れた。その変化に玉章も気が付いたようだった。

どくどくと自分の鼓動がやけに響く。身体が震える。のどを通るのは空気ばかりで声がでない。

先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか、急に静かになったリユキを不思議に思い玉章はおもむろにリユキに近づこうとしたそのときだった。
ガシャアァァァァンと大きな音を立てて窓ガラスが割られ、外から三羽鴉が飛び込んできた。

玉章は一瞬あっけに取られるが、黒羽丸の錫楊をとっさに刀で受け止める。
その間に、トサカ丸とささ美はリユキと牛頭丸、馬頭丸のもとへ降り立った。

「お前たち、奴良リクオの命令か・・・?」

「言う必要はない。ここは奴良組のシマだ」

「(単独行動・・・?)」

「引くぞ!」

三羽は三人を抱えてあっという間に飛び立った。それを夜雀が追おうとするが、玉章がそれを止める。

「待て・・・放っておけ。リユキは惜しいが・・・。刻はきた・・・今夜奴良組本家に総攻撃を仕掛ける」





「リユキ様!怪我はありませんか!?」

リユキはささ美に抱えられていた。しかし、反応がない。

「リユキ様?」

「ささ美、リユキ様は大事ないか?」

黒羽丸は牛頭丸を支えている。

「それが・・・気を失っているのかもしれない・・・」

「兄貴、馬頭丸も危険だ!」

「とにかく本家へ急ぐぞ!!」








「親父!」

奴良組本家へ帰還した三羽鴉はカラス天狗の部屋の前へ降り立った。
部屋の戸を乱暴に叩く黒羽丸。

「何事じゃ、息子よ」

がらっと戸が開いて、中からカラス天狗が出てきた。

「鴆殿は来ているか!!牛鬼殿と猩影殿も・・・呼べ!!」







猩影が呼ばれてリユキのもとへやってきたとき、三羽鴉と牛鬼がリユキ、牛頭丸、馬頭丸を別の部屋へ運ぼうとしていた。

「リユキ様!!」

ささ美に抱えられたリユキの表情は見えない。
かろうじて意識を保っていたのは、牛頭丸だった。

「牛頭、しっかりしろ!!」

「おい、馬頭の奴危険だぞ。連れていけ!」

ささ美からリユキを受け取った猩影は、初めてリユキの顔を見る。怪我はないようだが、虚ろな目でどこかを見つめるリユキに反応はない。

このようなリユキの様子に猩影は覚えがあった。

「くそっ!リユキ!!しっかりしろよ!」

ぎゅっと抱き締めもリユキは抵抗すらしない。


そしてリクオもその場へ駆けつけた。
周囲の妖怪が牛頭丸と馬頭丸の怪我を嗤う。そして牛鬼組を責め始める。

「牛頭丸・・・ゴメン・・・僕のせいだ。君は・・・僕の命令で動いたのに・・・こんな、こんなことになるなんて」

「うるせえっ・・・テメエの傷を・・・人のせいにすると思ってんのか俺がっ・・・俺の力不足だ」

牛頭丸、馬頭丸の満身創痍がリクオの策によるものだとわかると、途端に周囲の妖怪が今度はリクオを責め始めた。

「若・・・これは私が推薦したもの・・・これは、我々牛鬼組の責任」

「・・・おい、それより・・・リユキは無事か」

息も絶え絶えに牛頭丸が言葉を噤む。

「急に・・・様子が変わったんだ・・・」

牛頭丸にはリユキの様子が変わった理由がわからなかった。

「ざっけんじゃねえ!四国の奴ら、奴良組のシマで好き勝手しやがって!!それならこっちから乗り込んでやろーじゃねぇか!!みんなぁ!!」

リユキを片手に抱え直して、猩影は長剣を突き立てて叫んだ。しかし、それに賛同する声はひとつもない。

「なんだよ・・・おめーら!!なんで・・・誰も反応しねーんだ!!」

そしてリクオに振り返って訴えかけようとしたときだった、リクオの身体が傾いた。膝をつき、嘔吐してしまった。

「リ・・・リクオ様!!」

側近が駆け寄りリクオを介抱するが、リクオはそこで意識を手放した。
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