流水落花


□その十七
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ゆらを京へ見送ったリクオは、京都で起きていることについて考えを巡らした。
京で一体何が起こっているのか、竜二の言った動き出した"やつら"とは誰なのか、おそらく妖怪であるらしい”やつら”の存在は記憶の片隅にある父親の死になぜか引っかかりを残した。



「四国を倒して天狗か?てめぇの力じゃ…下っ端にもやられるぞ」

京都に行きたいと言い出したリクオに、ぬらりひょんは頭を冷やすようにと灸を据える。
池に突き落とされたリクオは祖父、いや奴良組総大将に勝負を挑むのだった。


「リクオ、どーしても京都に行きたいと言うんなら…てめぇの刀を抜いてみろ」

ギラリ…ぬらりひょんが刀を鞘から抜いた。

「リクオ様!?総大将!?何やってんですかー!?」


そこへ偶々通りかかったのはカラス天狗。しかし二人の気迫に圧されて止めに入ることはできない。


「わしが見えるかの」

瞬く間にぬらりひょんはリクオを、その畏れの餌食とした。

血を吐いて倒れ込みそうになるリクオ。しかし寸でのところで踏みとどまる。

「リクオ…お前には――何も教えてこなかったな」


妖の畏れ、戦い方…。今までリクオはそれを見よう見まねでものにしてきた。


「でもそれだけでは無理じゃ。古の妖は、次の段階をふむ」

ぬらりひょんを取り巻く雰囲気がガラリと変わる。
リクオは何が起きたのかわからない。気づいたときには地に伏していた。


「今のお前じゃ京都に行ってもどーしょもない。わかったらねてろ」



ぬらりひょんはリクオに背を向け去ろうとする。リクオはどうにか起き上がると京都にこだわる理由を述べた。

「…親父のことだよ。京都にいるんだろ…『羽衣狐』ってのは」

ぬらりひょんとて忘れたわけではない、その妖の名前を。しかし本来孫のリクオは知るはずのない妖だった。

「だから教えろ、じじい」

リクオが一気に間合いを詰める。「羽衣狐」の名に気を取られていたぬらりひょんは一瞬反応が遅れる。されどそこは奴良組総大将である。

本日一番大きな音と衝撃が辺りに駆け巡る。

「孫相手に刃傷沙汰など…やりすぎです。いくらか厳しすぎやしませんか」

カラス天狗は漸く総大将に近寄ることができた。
リユキ様や若菜様が見ていなくてよかったと密かに安堵する。



ぬらりひょんは悲しい記憶を呼び起こす。息子の葬儀で孫たちを抱きしめたときことを。

『お前たちは何も知らなくていい』

父の死をまだ理解していないリクオには、その事実をはっきりとは伝えなかった。時が流れ、リクオはそれを理解した。

一方、父の亡骸の側で放心状態のところを発見されたリユキには、掛ける言葉が見つからなかった。それほどにぬらりひょん自身も動揺していた。やがて心を閉ざしてしまったリユキは元の明るさを失った。
真相は闇の中。奴良組は暫くの間、賑やかさを忘れたように静かだった。



「おいカラス…あいつらを呼べ」

それだけで十分に何を意味するのかカラス天狗にはわかってしまった。

「無茶です!!殺す気ですか?総大将!!」




その二日後、リクオは自身も知らぬ間に修業のために遠野へと送り出される。
リクオが連れて行かれ、満身創痍のリユキもまだ眠ったまま。すっかり活気がなくなってしまった奴良組で、それでも妖怪たちは日々の勤めを全うしている。
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