流水落花


□その十九
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いくら怪我が治ったといっても、すぐには日常に戻してくれない。
それは薬師・鴆の言いつけによるものだ。宴会のときのこともあってそれは徹底されていた。

部屋の外に出ようものなら、見つけた誰かがすぐに飛んできて部屋に押し戻される。
そんなやりとりをもう何度したかわからない。そこで押し戻す側も考えたらしかった。リユキの部屋には必ず誰かが付くこととなった。


「ささ美〜見回りはいいの?」

「今はトサカ丸の番なので」

「トサカ丸、逃げちゃうかもよ?」

「それはリユキ様でしょう?」

「・・・ささ美、外に連れて行って」

ささ美は思う。
もしこの見張りが男妖怪だったら、簡単にリユキを許していたかもしれない、と。
リユキの懇願する顔やつまらなそうにしている表情をみれば、どうにかしてやりたいと思う輩も少なくはないだろう。


「ダメです。(だからか・・・私が選ばれた理由は)」

「あ、ねえささ美」

「なんですか?」

「リクオは、どこにいるの?」

リユキは昨日から気になっていた。
弟が今どこでどうしているのか。

「そうか、リユキ様は知らなかったんですね。1週間ほど前にリクオ様は修業のため遠野へ行かれました」

「修業・・・遠野に?」

「ええ。親父殿あたりに聞けば、もっと詳しく知っているかと」




ささ美が任務のため部屋から出て行くと、猩影が訪ねてきた。

「リユキ、調子はどうだ?」

猩影は入り口の鴨居に手をかけて、部屋の中を覗き込むようにしながら入ってきた。

「猩くん、もう大丈夫だって言ってるのに。・・・みんな過保護なのよ」

「ははっそりゃ仕方がねぇよ。あれだけのことがあったんだから」

少々機嫌が悪いリユキを宥めるように、猩影は頭を撫でてやる。



「ねぇ猩くん、遠野って知ってる?」

「遠野・・・?(若が修業に行ったとこだっけか?)」

「妖怪の隠れ里、遠野。里自体が妖怪と言われるほどの土地で、畏れを断ち切らなければ中に入ることも、そこから出ることもできない」

リユキはどこで得たのか、遠野について知っているらしかった。

「リクオは・・・リクオなら大丈夫だよね」

ここへきて初めてリユキの言わんとしていることが猩影にも理解ができた。
リユキは修業に行ったリクオが心配なのだ。弟の身を案じている。不安になっているのだろう。

「若ならきっと大丈夫だ。必ず帰って来る」

猩影はリユキを自分の膝の上に座らせる。

「猩くん、お散歩行かない?」

振り返ったリユキが上目遣いで言う。

「だーめ」

猩影にまで拒否されたリユキは、漸く大人しく過ごすことにしたのだった。
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