流水落花
□その二十三
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京妖怪が奴良組本家を訪れたのは、リクオの百鬼が出陣したすぐあとのことだった。
奇襲とも言えるその傍若無人な訪問は、礼儀も何もあったものであはない。主力がいない奴良組とて、そんな侵攻に劣るはずがない。初代ぬらりひょんの百鬼をはじめとした古株、そして鴉天狗一族、牛鬼組が揃えば京妖怪といえど、雑魚では敵うはずがない。
舐められたものだ、奴良組各人はこう思うほかなかった。いくら勢力が落ちた、衰退したとはいえ、魑魅魍魎の主まで上り詰めた組がそう簡単にやられるはずがないのである。
敵はあっけなく倒された。しかし、その襲来目的が奴良組を騒然とさせた。彼らは仕切りに「姫はどこだ」と言っていた。「生き肝を」とも。これが何を意味するのか分からないものはいないだろう。
京妖怪の狙いはリユキ様だ、本家の守護に当たっていたものたちがリユキを守るべく、その部屋を訪れる。
しかしそこに部屋の主はいない。あったのは置手紙が一枚「京に行ってきます」。見つけた者は仰天した。この事実を襲来した敵に悟られまいと叫び声をあげそうになる口を必死で抑えた。
そうして発覚した、リユキの所在。本家に残った奴良組組員が揃ってため息をついたのは言うまでもない。
庭先では一人の男が素振りをしている。奴良組総本山を治めるぬらりひょんである。先の京妖怪襲撃からこっち、彼はひとり黙々とその身を鍛え上げていた。
「総大将は一体何をなさっています」
「さあてな・・・」
ちらりと、主の様子を視界にいれて鴉天狗と木魚達磨は茶をすする。
「それにしてもリユキ様――あの方はやはり総大将の孫というか」
「鯉伴の娘というか・・・」
「京妖怪が暴れ続ければ、いずれはワシら奴良組への復讐へと続くことになろう、とは思っていたがこれほど早期とは」
「止めるべきじゃった・・・いまだ発展途上のリクオ様がなぜ自ら向かう必要があった?それにリユキ様も・・・」
鴉天狗と達磨がそろって落胆したときだった。
「なーにを”マイナス思考”で”ネガ”っとるんじゃい。あの子達がどこまで出来るか見てみたいとは思わんか?」
「総大将」
「自分の意志で人を殴りたいと言ってきたのは初めてのことじゃろう、尊重したいじゃろ・・・」
「しかしまだ早かったのでは?リクオ様やリユキ様には弱点がある・・・人間の血という――それにリユキ様には珱姫様の治癒の力があります」
「今のワシは羽衣狐を倒せんじゃろうが、リクオやリユキならやるかもしれんぞ――」
ぬらりひょんの意外な見解に鴉は驚いた。
「人間の血が弱点になるとはかぎらん・・・ワシはそう思うぞ」
鯉伴の死の真相がわかった今だから、あの子たちは選ぶ。人か妖か――。
「心配するな・・・リクオには『ワシのもっとも信頼を置く男』を送った」
「・・・ほう、やはり孫がかわいいのですな」
「あいつがどーしてもと言うからじゃ」