流水落花


□その二十六
1ページ/4ページ

「この問題なんだけど」
「どれ?あー、これはこの公式を使ってー」

約束通り、クラスメートたちと夏休みの宿題に取り組んだ日の夕暮れ。猩影とリユキは帰路に着いていた。
道すがら、リユキは先程の会話を思い出す。

「リユキちゃん、元気になって良かった!」
「本当よ!急に学校来なくなっちゃうんだもん、心配したんだよ」
「俺も!めちゃくちゃ心配した」
「ありがとう、みんな」
「な、猩影もそうだろ?」
「だってあのときの猩影くん、すごい沈んでたよね」
「なっ!そんなことまで言わなくてもいいだろ」
「あのときはムッスーってしかめっ面でさ」
「そうそう!相当落ち込んでたよね」



「ね、猩くん。本当にありがとう」
急に何を言い出すのかと思えば、リユキは繋いだ手に少しだけ力を込めた。


「今がすごく楽しいなって。それはね、猩くんが待っていてくれたからかなって思って」
「俺はただ…リユキと、一緒にいたいだけで」
「うん、私も猩くんと一緒にいたい。ねぇ猩くん」
リユキが数歩翔けるように前に出て振り返った。夕陽に照らされたリユキの顔は赤かった。


「好きだよ」

ストレートに伝えられた言葉に、猩影は一瞬戸惑った。今、なんて?リユキはなんて言った?
リユキは、そんな猩影を見て微笑んだ。まるで予期していたかのような笑みだった。

「お、俺も…リユキが好きだよ」
情けなくも噛んでしまう。
リユキは満足そうに歩き出した。猩影もそれに倣う。

「どうしても言いたかったの」
ぽつりとリユキがこぼす。

「いつでも、何度でも、どこでも…リユキが言いたいときに言ってよ」
「ふふ…じゃあお言葉に甘えて、言いたくなったら言うね」



「夏が終わるね」
「秋にしては、暑いけどな」
「うん、それにまた忙しくなりそうだね」

秋の盛りのその日には、奴良組の新体制がお披露目になる。
熱く、長かった夏が終わる。そして新しい季節が奴良組に訪れようとしていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ