流水落花・・・番外編

□お詫びの印に
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昼休みの終わり、教室に戻って席に着くと、見慣れない封筒が椅子に置かれている。「奴良リユキさんへ」と書かれたそれは、所謂ラブレターという代物だった。

今日はこれで3通目だ。今も2件の通過儀礼を終えて帰ってきたところである。

手紙の内容は、典型的に場所と時間を指定するもので、最後に小さくこう書かれていた。

「忙しくなければ来て下さい。ただ、一度だけ奴良さんとお話がしたいだけなんです」






指定された場所は体育館の裏だった。リユキがそこへ行くと一人の男子生徒が体育館に背をもたれさせて待っていた。

「リユキちゃん!来てくれたんだね!」

手紙の文面からはおよそ想像できないキャラの持ち主がそこにはいた。

「えっと、あの・・・」

「あ、手紙読んで来てくれたんだよね!?俺らリユキちゃんと遊びたくてさー」

目の前の男は今、確かに「俺ら」と言った。

後ろで、じゃりっと地面を踏む音がする。

「!きゃっ・・・」

気配を感じて振り向いたときにはもう遅かった。スタンガンを持った男がリユキを受け止める。リユキは意識を手放した。







寒さを感じてリユキは目を覚ました。
頭が痛い。ここはどこだろう。どうして自分はこんなところにいるのだろうか。
そうして考えているうちに思い出したのは、体育館裏での出来事。ああ、油断した。彼らの犯行は計画的だった。

辺りを見回すと、どこかの廃ビルの一角のようだ。硬いソファーに寝かされて、ご丁寧に制服のブレザーがかけられている。
けれど、身動きが取れない。両手をひとくくりにされている。

薄暗い室内を見渡すと、窓があり、外はすでに夜だった。



「どうしよう」

リユキは呟くが、返ってくる声はない。誰の気配も感じない。
ここはどこで、自分がこれからどうなるのか、わからない。

携帯電話は教室の鞄の中。着の身着のまま、指定場所へと足を運んだ。



「あ、まずいかも」

そこでリユキは重要なことをひとつ思い出す。

「猩くんに怒られる」

リユキの頭を占拠しているのは彼だけだ。もともとお断りをしようとして指定場所に行ったものだから、猩影には伝えていない。ただ、用事があると言って教室を出た。
きっと彼は気づいている。もしかしたら、待っているかもしれない。これは己惚れではなく経験だ。

どれくらい時間が経っているのかもわからない。
戻らないことに不振を抱くのにはどのくらいの時間が必要だろうか。

考えている暇などない。一刻も早く、ここを抜け出さなくては。

リユキが行動を開始しようとしたとき、人の気配を感じた。
彼らが帰ってきた。






「リユキちゃあああん、起きた〜?」

がたっと乱暴な音を立てて扉が開く。
開く前にがちゃがちゃと音がしたことからやはりカギはかかっていた。

開いた先から明るい光が差しこんできて、リユキは目を細める。

「あー!起きてるじゃん」

「ごめんねー!寂しかったよねー」

入ってきた男は全部で3人。扉は外からの施錠ができるだけだった。つまり今は開いている。

どうにか隙をみつけて逃げ出そう。








「くそ!リユキ、どこだ」

猩影は学校中を探し回った。
リユキが、用事があると出て行ってからだいぶ時間が経つ。
「用事」なんて言い残して出て行くのに、用事はひとつしか思いつかない。

自覚してくれと何度も言った。
危ないからと何度も言った。

そのたびに彼女はこう言うのだ。『大丈夫、お礼をいってくるだけだから』

自分を好いてくれたことを無碍にはできない。そういう意味だと思う。

猩影があまりにも気にするものだから、あるときからリユキはそのことを「用事」と言うようになった。

学校にはもういないだろう。そう見切りをつけて猩影は学校の外へと飛び出した。リユキの気配を探る。もし、妖怪に変化してくれていれば彼女の気配を追うことができる。

「リユキ!」
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