流水落花・・・番外編
□バスケットボール
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「猩影!頼むよー!」
「少しでいいからさぁ」
昼休み、廊下で呼び止められた猩影は、自分より背の低い先輩たちに囲まれた。
「困りますよ先輩!俺にも事情ってもんが、」
バスケ部の即戦力になってほしいと縋られる。こういうことは前にもあり、猩影はそのたびに断ってきた。それでも尚、猩影へのオファーは止まない。猩影は高身長な上、バスケが上手かった。そのことは体育や球技大会などの場で証明されている。
「事情ってあれだろ、彼女だろ」
先輩の中の一人が切り出した。もう一人は肘で猩影をつつく素振りをする。
「え、」
彼女、それを聞いて猩影は固まる。
「大丈夫!そっちにはもう了承済みだから」
「え、」
了承済み?
「リユキちゃんだっけ?あの子めちゃかわだよな」
「・・・」
もう猩影は会話についていけないでいた。
「そうそ、ホントあんなかわいい子どうやってゲットしたんだよ」
「・・・あの、先輩方・・・」
「ということで、今日の放課後からよろしくなー!猩影」
バシっ!猩影の二の腕あたりを景気よく叩いたバスケ部の先輩たちは去っていく。
「っリユキーーーーーー!」
「ああ、あれね。・・・えっと、猩くんのバスケがみたいなあ」
読んでいた本から顔を上げたリユキは、なんでもないような口ぶりでさらっと応対する。
「なあ、なんで後半棒読みなの」
「うーん・・・猩くんがキメるとこ、みたいなぁ」
ちらり、本に視線を落としてあげて、できるだけ感情を込める。
「ちょっとはマシになったな、じゃなくて!なんで勝手におれがバスケ部参加することになってんだよ!!」
「猩くん、バスケ嫌い?」
リユキの視線は文字を追う。
「や、嫌いではないけど」
構わず答える猩影。リユキはその答えを聞いて、あっさりと本を閉じた。栞を挟んだりはしなかった。
「好き?」
ドキリとする。首をかしげながら、発せられたそれを。リユキはきっと無意識なんだろうけど。
「好き、だけどさ」
ふふと笑った。
「けど!俺が部活してる間、リユキはどうすんだよ」
「待ってるよ」
当たり前でしょ、とリユキ。
「たまにはいいよ。みんなだってわかってくれる。猩くんが一緒だから、私、ここにいるの」
「リユキ・・・」
リユキに護衛がいない理由。それは猩影がいるから。
「それに、バスケやってる猩くんかっこいいから!」
ふわっ。笑った彼女に猩影の鼓動はまた高鳴った。
「っていうか、リユキ!先輩たちに何かした?」
「してないよー」
「だって、名前だって知ってたし」
「ただ、猩くんを『貸してくれ』って言われたから、『いいですよ』って言っただけ」
「ホントそれだけ?なあ?」
かくして、猩影の期間限定バスケ部入部が決定したとか。
「奴良さん?」
リユキは廊下の曲がり角、待ち伏せていた彼らに危うくぶつかるところだった。
「あのさ、君の彼、バスケしたらかっこいいと思うんだけど」
いきなり何の話だろうか。リユキは漸く彼らの顔をしっかり見た。
「それ、特等席で見たくない?」
「ちょっとの間だけ、バスケ部に貸してくれないかな?」
「え、あ、はい・・・」
「本当に?ありがとー!」
「じゃあこれ、ここに名前書いてくれる?」
「ここですか?」
「そう、この席、一番試合がよく見える席だから」
続くかも?