銀の刃が光る時(長編)

□第十四訓
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祭の雰囲気に触発して、笑い騒ぐ人々で賑わう中央広場。真選組監察の山崎退は大きな欠伸をした。

「真選組の警備がこんなに暇なの、初めてじゃないですか?ていうか、これ警備する必要あるんですかね?あんまり暇なら、俺的には明日ミントンの試合があるから帰りた「山崎、歯ァ食いしばれ。」バキッ!!「ぐふっ!!」

「いかなる時にも油断は禁物。山崎ィ、テメェ切腹でもするか?」

「いっ、いいえ!結構です!あ、たこ焼きでも買ってきますね!」

そそくさと立ち去ろうとした山崎を、土方は呼び止めた。

「おい、あれからどうだ?」

「万事屋の旦那のことですか?まるで何もないですよ。寧ろなさすぎて気持ち悪いくらいに。攘夷なんて文字はどこにも浮かんできやしないし、大体あの噂だって正しいかどうかは定かではないし。まあ、まだ探ってはみますがね、旦那が今までどんな仕事してきたのかはわかりませんが、天人が出入りするクラブだとか結構危険な場所もあって。監察の俺がこんなこと言うのもアレですけど、怖いんですよね。たこ焼き買ってきます。」

天人のクラブなんて、犯罪の巣窟じゃねぇか。それでもアイツの名は出てこねぇ。どういうことだ?
悶々と考え探ってみるものの、最もらしい答えが見つかるでもなく、土方はため息をついて煙草を取り出した。

「考えるだけ無駄だな‥。今は警備に専念しねぇと…」

「副長ォォォ!!大変ですぅぅぅぅ!!!」

突然の大声に、土方は驚いて出した煙草を取り落とした。

「煙草無駄になっちまったじゃねーか!!」

「すっ、すいません!でも今はそれどころじゃないんです!妙な刀を手にした男が、暴れ回りながらこっちに向かって来てるんです!!このままじゃ混乱に成り兼ねません!!」

「何!?」

土方は周りを見回してからチッと舌打ちした。近藤にも再三注意を促されていたが、やはり幕府の高官などが参加しないというのは影響が大きく、いつもよりも警備は手薄できちんと警戒体制にも入れていない。土方自身、気付かぬうちに気を抜いてしまっていたらしい。

「おい、総悟はどうした?」

「それが、隊長の姿がさっきから見当たりません!」

「あのヤロー‥肝心な時に!」

「副長!先程入ってきた報告では、隊士数名が男の動きを止めようとしましたが、余りに勢いが強すぎて止められず、どんどんとこちらに近づいてきているとのことです!」

「何だと!?」

真選組の戦力が押されている!?
とても信じられることではないが、土方は最悪の場合を想定して、広場にいた人間を全員避難させることにした。

「おい!ここにいると危険だ!全員避難しろ!」

「おい。」

「あ?」

振り返るとそこにはたこ焼きを手にした神楽が立っていた。

「何やってるアルか?相変わらずマヨネーズにまみれた税金泥棒。」

「まみれてねーよ!!それから税金泥棒じゃねぇ!!つーか、テメェも早くここから離れろ!」

「もー、神楽ちゃん!山崎さんのたこ焼き盗ったんだって!?ちゃんと返しなよ!」

「何だヨ、新八ぃ!お前はそうやって地味な奴の味方ばっかやってるからいつまで経っても地味なままなんだヨ!!」

「何それェェ!?別にそれ関係ないでしょ!!ていうか、地味って言わないでくれる!?神楽ちゃんにはわかんないかもしれないけど、地味って言われると結構傷付く‥ってあれ?土方さん、何やってるんですか?」

「眼鏡のガキか。丁度良い、そのバカを連れてここから離れろ。」

「バカとは何アルか!?心外ネ!!」

「えっ、離れろって‥何かあったんですか?」

ギャーギャーと騒ぐ神楽を無視して、土方は口を開いた。

「もうすぐここに、刀を振り回して暴れる男が来る。真選組の隊士が止めようとしているが、情けねぇが無理らしい。なるべく被害を最小限に抑えたいんだよ。だから一般人は大人しく離れてろ。」

「副長ォォォ!!来ましたァァァ!!」

「チッ‥思ってた以上に早いな。これでわかっただろ?さっさと…」

「倒せば良いアルな?」

「は!?テメェ、何言ってやがる!!」

「そうだよ、神楽ちゃん!無茶なことは止めた方が‥」

「ガァァアァアア!!!」

ガシャアアアン!!!

雄叫びと何かが壊される大きな音が響いた。思わず目をやると、まるで自我を無くしたかのように白目を剥いて激しく暴れている男がいる。そして、その手には‥

「何だ‥!?あの刀は…」

刀と呼ぶべきものかどうかもわからない、余りにも禍禍しいオーラを発するものが握られていた。
それを見た新八は、すぐにビビって情けない声を発した。

「ウヒャアアア!!やっぱり無理だよ、あんなの相手にするの!!銀さんは近くにいないし!!」

「銀ちゃんなんかいなくても平気アル!税金泥棒達がダメな今、万事屋の私達がどうにかするしかないネ!私がアイツを止めてるから、オマエはさっさと銀ちゃんを呼んでくるヨロシ!」

神楽は傘を担いで走っていってしまった。

「どっ、どうしましょう土方さん!神楽ちゃんが!!」

「総悟といい、チャイナ娘といい、ガキってのはどうにも迷惑をかけたがるらしいな!とにかくお前は万事屋を呼んでこい!!」

「はっ、はいっ!!」

新八が走っていった後、土方は腰の刀を抜いた。

「今万事屋を呼びにいっても間に合わねぇ。あのガキは俺が探し出して止めるしかねぇか‥。それにしても…」

いくら見慣れない刀を握り、そして人間とは思えない素早さを持ち合わせている相手とは言え、何も出来ないうちに飛ばされていく隊士達に、土方は怒りを覚えた。噴火寸前までいった土方だったが、頭に水を被った。そして、今やるべきことを冷静に考えた。

「今はイラついてる時じゃねぇ!そんなことよりあのガキどこまで行った…な!?」

土方の目に入ったのは、攻撃を仕掛けようとしているのか、神楽が男の眼前に跳んだところだった。案の定弾き飛ばされた神楽を、土方は受け止めようと走ったが、距離がありすぎた。

(クソッ、やっぱり駄目か‥!?)

そう思った時だった。銀色の影が前を横切り、神楽の身体をしっかりと受け止めた。銀時だ。

「アイツ、間に合ったのか‥」

ほっとしたのもつかの間。次の瞬間、土方は信じられないものを見た。
木刀を抜いた銀時の隣に立ったのは、全国指名手配されていて、真選組も追っている攘夷志士の桂小太郎。しかも、銀時はその桂と言葉を交わしたのだ。何を言ったのかはわからない。だが、まるで昔からの仲であるかのように、互いのことを既に理解しきっているように土方の目には映った。そして彼らの眼が鋭いものに変わったかと思うと、二人は揃って跳躍し、男目掛けて刀を振り下ろした。
それは、まるで鬼神のごとき強さだった。真選組の隊士達は追いつくことが出来なかった男の速さには、追いつくどころかそれよりも数段速い速度で、繰り出してくる度に無駄のない動きでかわした。そして、強く素早くしなやかに、しかも的確に確実に急所をついた剣捌き。ばらばらになることがないコンビネーション。
その場からは、刀と刀が交わる音以外、何一つ響きはしなかった。

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